84. 食べ物

狐には油揚げ。河童には胡瓜。キジムナーは、グルクンという魚の目玉が好物だ。他に食べ物といって思いつくのは、小豆とぎ豆腐小僧飴買い幽霊二口女...。逆の意味ではヒダル神。中国の四凶の一饕餮は、何でも食べてしまうという。まずい料理として悪名高いスコットランドの〈ハギス〉は、羊の内臓の腸詰めなのだが、ハギスなる生物がいるとも...。

今では普通に世界中で口にされている物の中にはかつて悪魔の食べ物と言われた物もある。ジャガイモ、コーヒー等がそれである。タコは今でも悪魔の魚として食べない国も多い。

逆に古代メキシコで神の食べ物とされたのが、カカオ。農耕神であり、文化神でもあるケツァルコアトルが天よりもたらしたのだという。トウモロコシの女神チコメコアトルもいる。また、マヤでは、バクとヘビの血から人が生まれたと言われる。

日本の食べ物の女神は大宜都比売命。国生みの際の阿波国の別名でもある。神話では、追放された素盞嗚尊に料理を振る舞うが、鼻や口や、尻から出した物であった為、殺されてしまう。その身体の各部から、蚕・稲・粟・小豆・麦・大豆が生じた。世界中にある死体から食べ物の生まれるハイヌウェレ型神話だ。

中国では、良い政を行うと、天から甘露が降るという。また、霞を食うという仙人の中には、栗・棗を食うもの、大根葉を勧めるもの、松の実が仙人になるとも。

中国で仙果とされるのが桃。崑崙山の仙女西王母蟠桃園には、九千年に一度実をつける、食べると不老不死となれる桃があり、これを盗み食いした孫悟空五行山に封じられた。この西王母の誕生日が三月三日の桃の節句。『日本神話』においても、黄泉平坂にて伊邪那岐が、伊邪那美のけしかけた予母都色許女らを、桃を投げ撃退した。この話や『桃太郎』もまた、中国から伝わった、桃が邪を破るという説の影響だろう。

ギリシア神話の穀物の女神はペルセポネ。また、アンブロシアなる蜜より甘く香りもいい、不老不死となれる食べ物も。これの飲み物版がネクタル。あの〈不二家〉の〈ネクター〉も、ここから取ったのだろう。インドにも、これとよく似たソーマや、アリムタ等がある。後者は100年撹拌して造られる! ゾロアスター教のハマオも同様。

キリスト教では、やはり『旧約聖書』にある禁断の果実。『創世記』において、エデンの園にある善悪の知識の木の実。ヘビに唆され口にしたアダムイヴは死する身体となり追放された。一般には、リンゴとされるが、実はこの時代のこの地方にはリンゴは存在していなかった! 他の地方にはあったが、この地では食用とはされていなかったという。ラテン語の「善悪=malus」がリンゴと同じ綴だった為の間違いとも言われる。では、何なのか? イチヂク説もあるが、これは生命の木の実だとされる。スラブでは、トマト、ブドウ。ユダヤでは小麦。西アジアではマルメロ。ザクロ説、バナナ説もある。さすがにバナナは、なしのようなありのような...。

誰も皆罪人の末裔林檎齧る風来松