広島県山県郡では、牛を進ませる時に「シイ、シイ!」と声をかける。この「シイ」が、今回の妖怪、シイである。
姿は、イタチに似て、賢く、素早い。触れただけで、人に切り傷を与えるという。牛馬を襲って食べる。
和歌山県有田ではヤマアラシとも呼ぶ。山口県長門では、5月5日になる前に牛を使う、牛具を付けたまま川を渡らせる等のタブーを犯すと、これが牛に憑き食い殺されるという。福岡県直方の〈福智山ダム〉付近に立つ石碑には、イタチに似たシイラクという怪物が洞窟に棲み、牛馬を食い殺したと、記されている。
『和漢三才図会』に載る志於宇(しおう)も、よく似ている。1701年奈良・吉野に複数現れ、狼に似た四尺程の大きさ。尾は太く、水かきもあったという。四国の牛打ち坊も、同類か。
元はやはり、中国。宋の『鉄囲山業談』に洛陽を襲った数十匹のシイの話がある。姿は人のようだが、色は黒。人を噛み、子を攫って喰う。戦乱・亡国の兆しという。また、夜になると人家に入り、女を犯すとも。星、黒気、火の屑ともなるとある。また、1476年に現れたものは、狸か犬のよう姿で、風のように飛び、黒気と共に現れるとある。この事から、漢字では「黒」に、「生」の下に「月」と書く。
もし、運悪く遭遇したなら、シイの苦手な鉦や太鼓をたたいてみよう!
黒帝の生まるるつむじ風の中風来松