特別な自然条件、或いは人為的に、乾燥され長期間原形を留めている死体。
前者では、石器時代のアルプスの〈アイスマン〉、デンマークの〈トーロマン〉は紀元前! 人ではないが、シベリアではマンモス等のミイラが多数発見されている。
後者では、前に取り上げたエジプトのツタンカーメン、中国の〈楼蘭の美女〉、日本にも藤原三代のミイラが残る。また、ロシアのレーニン・スターリン、北朝鮮の金日成・金正日、ベトナムのホーチミン、中国の毛沢東らのように思想的背景で作られた類も少なくない。
16〜17世紀の西洋では、ミイラが薬として利用され、江戸時代の日本にも輸入された。貝原益軒の『大和本草』には、打ち身・骨折・虚弱・貧血・産後の出血・刀傷・気疲れ・痰・虫歯・頭痛・二日酔い…に効く…て、万能薬!? ただ、これまんざら嘘というわけでもないようで、実際ミイラに使われていた防腐剤の主成分は、「天然の抗生物質」とも言われる蜂の巣から僅かに採れるプロポリスらしい…。また絵の具の材料ともされ、ミイラの粉末と松脂、没薬を合わせた〈マミーブラウン〉は、陰影・濃淡・人の肌等に使用され、ルネサンスの、画家達に重宝された。今も、色としての名前が残る。
逆に日本からも、人魚や河童の木乃伊が輸出され、人気を博した。あのシーボルトも何体も購入して帰り、オランダの〈ライデン国立民族学博物館〉に現存する。
かつて、大分にあった〈別府怪物館〉には、鬼のミイラがあった! ネパールの雪男の頭部のミイラも有名。
映画では、1932年『ミイラ再生』がモンスターとしてのミイラの元祖となった。この映画のリブート作『ザ・マミー』を2017年にトム・クルーズが製作。大コケしたが、また来年2025年に再リブートされるらしい!『ハムナプトラ』も記憶に新しい。
ミイラではないが、1996年と2002年に日本でも開催された『人体の不思議展』は、組織液を合成樹脂にする技術〈プラスティネーション〉で様々な展示を行った。確か、広島で観に行ったと記憶しているが、こんなものを見ていいのかという背徳感があった。その後、主催のドイツ人グンター・フォン・ハーゲンスは、人権問題や、違法性を問われ展示会は中止された…。彼は、「死の医師」の異名を持っている…。
最後に…。何年か前に旅行したメキシコ・グァナファトには〈ミイラ博物館〉がある。日本を出る前、ハイミー句会の時計子さんが、レイ・ブラッドベリの、この町を舞台とした短編『次の番』を貸してくれて、読んでいた事もあり、とても行く気にはなれなかった…。
凍星や木乃伊いただく花冠風来松