2023年1月25日。奈良県にある日本最大の円墳〈富雄丸古墳〉で、前年に見つかっていた埋葬施設から、驚きの発見があった事が公表された! 木棺を封じる粘土に貼り付けてあったのは過去に例のない鼉龍文(だりゅうもん)盾形銅鏡、そしてこれまでに見つかった中で最長(2.73m)の〈蛇行剣〉! 剣の先には、漆の突起があり、剣を納める鞘の先と思われる石突らしき物が。柄頭は剣でなく刀の特徴を表すL字型だった。
〈蛇行剣〉はその名の通り、蛇の様に曲がりうねった形状をしており、生命力や再生を司る蛇とも、川や雷を表しているとも言われる。中国の良く似た〈蛇剣〉は、相手の傷口を深く抉り、縫合を難しくする為に湾曲している。日本では古墳時代の遺跡から出土した鉄剣とされ、これまでに約80本が発見されている。あの、〈三種の神器〉の一つ〈草薙の剣〉が〈蛇行剣〉の始まりとも言われる。以前にも書いたが、この刀は素戔嗚尊亡きあと、日本武尊の手に渡ったのだが、実は〈富雄丸古墳〉に埋葬された人物が、その子孫麛坂皇子(カゴサカノミコ)とも言われる。
そして、大発見と言われる所以は、その形状だけでは無い。これらは、ほとんど記録が残っていない空白の150年と言われている、4世紀のものと考えられるのだ…!
空白の150年とは、正確には、卑弥呼の統治した〈邪馬台国〉の3世紀と、倭の五王の〈ヤマト政権〉の5世紀の間。入墨をしたり、銅剣・銅鐸が作られた呪術色の強い前者と、牛馬が出現し、鉄器を使い始めた武力色の強い後者とで大きく時代が変化している。実はこの時期、日本にはまだ文字が無かった為、記録は中国に頼る。『晋書倭人伝』に『西暦266年倭の女王台与が西晋に朝貢した』とあり、その後が『宋書』等にある『西暦413年倭王讃が東晋に朝貢した』で、その間の記録がぽっかりと存在しない。唯一、高句麗の〈好太王碑文〉に倭が半島に攻めてきたと記されている。
前述の倭王讃とは、応神天皇、仁徳天皇、履中天皇…等との説がある。この中で仁徳天皇は、都を奈良から大坂に遷都した事が不自然で、一度〈大和朝廷〉は滅亡したのだが、天皇家の血統が途絶えていないとする為に、その前の150年の記録を隠蔽したのでは…という説がある。
一方で、当時の中国もまた、地球規模の寒冷化も影響し、北方民族〈匈奴〉の侵入があり、日本の相手をしている余裕は無かっただけ…というのが、もっともらしい説に思える…。実際この時期、日本に逃げてきた渡来人が少なからずいた。
世界史にも、似たようなの空白期間が存在するという説がある。西暦614年から911年までの約300年でファントムタイムと呼ばれる。根拠としては、その間の考古学的な歴史的事実が少なく、また炭素測定法等でも古すぎて正確さを欠くという、曖昧なもの…。神聖ローマ皇帝オットー3世・ローマ教皇シルウェステル2世、東ローマ帝国皇帝コンスタンティヌス7世ら、時の権力者が特別な西暦1000年という利用すべく、歴史を改竄したとする。提唱したのは、1947年ドイツ・バイエルン生まれの作家ヘリベルト・イリグ。終末主義に夢中な男で、先史時代や古代エジプトについても言及したり、出版したりしている…。もちろん、この説をまともに取り合う歴史学者はいない。彼の説だと、カール大帝も、カロリング朝も丸ごと無かった事になるし、世界中の天文学的観測等も全て捏造となってしまうので…。
因みに、空白の150年の方は、マンガ『ONEPIECE』や『進撃の巨人』の元ネタとも言われる。
まあ、古今東西、時の権力者による歴史の改竄や捏造なんてのは、ザラにあるだろう。そして消された歴史の方は、物語や歌の中で、妖怪や鬼等に姿を変えて伝えられてきた…。
『全ての人を少しの間欺く事は出来る。一部の人をずっと欺く事も出来る。しかし、全ての人をずっと欺く事は出来ない。』エイブラハム・リンカーン。
逃水や空白裂けり蛇行剣風来松