四度九尾の狐の登場である。絵は歌川国芳『本朝水滸伝豪傑八百人一個・上総介広常』。
ただ、今回の主役は句にも詠んでいるように、右端にいる妖怪、古空穂(ふるうつぼ)である。元は、『百鬼夜行絵巻』にある空穂(矢の入れ物)の付喪神。更に鳥山石燕が『百器徒然袋』にも描いた。そこには、『九尾の狐を退治した三浦の介の古空穂が…』といった適当な解説が…。
さて、矢といえば正月の縁起物破魔矢。もともとは、弓の腕前を試す〈射礼(じゃらい)〉で用いられ、仏教においては青面金剛配下の四夜叉の一、烏摩勒伽(うまろきゃら)の持つ金の矢とされる。「はま」は「的」で、一番力の弱った冬至の太陽を射て復活させるというのが、本来の意図。また、平安時代頃から、魔気・邪気を祓う鳴弦の儀が行われた。
世界の神話や、歴史にも、多くの弓矢が登場する。『日本神話』では、高天原まで届いたという天若日子(あめのわかひこ)の天之麻迦古弓(あまのまかこゆみ)。大国主命は根の国より持ち帰った生弓矢(いくのゆみや)で、葦原中国を平定した。この弓矢は〈美具久留御魂神社〉に奉納されている。雷上動は、源頼光が鵺を退治した弓。夢に現れた、楚の弓の名手・養由基の娘より授かったと『前太平記』にある。中国にも、以前書いた嫦娥に裏切られた后羿の、落日弓。黄帝の烏号、乾坤弓(『封神演義』に登場)。呂布の竜舌弓、モンゴルのチンギス・ハンの弟ジョチ・カサルの射周島神弓…等など。
『ギリシャ神話』のヘラクレスのヒュドラの矢、百発百中のアポロンの矢、『北欧』神話でオーディンの息子ドルドルの命を奪ったヤドリギの矢ミストルティン。『インド神話』にも、インドラのヴィジャヤを始め、多くの弓が登場する。
あの『ローマ神話』のキューピットの矢は、目の前の異性に強く愛情を抱く金の矢と、逆の効果のある鉛の矢とがある。キューピットは、自分の足を射た事から絶世の美女プシュケーと結ばれた。
弓の名手と言えば、那須与一、ウィリアム・テル、創作では『指輪物語』のエルフのレゴラス、『アベンジャーズ』のホーク・アイ。『ジョジョの奇妙な冒険』の弓と矢も!
最後に紹介するのは、イギリスのジョン・チャーチル。通称〈マッド・ジャック〉。1906年生で、〈第二次世界大戦〉を、ロングボウとクレイモア(片手刀)で戦った! 大戦後も、ユーゴスラビアで、あのチトー元帥と共闘。〈ノルウェー王立冒険クラブ〉から、〈史上最も優れた冒険家の一人〉の称号を授与されている。彼は弓の名手と共にバグパイプの名手でもあり、戦争前の1924年、映画『バグダッドの盗賊』(ダグラス・フェアバンクス主演のサイレント映画の傑作)にも出演し、演奏を披露している。戦地でも、演奏して味方を鼓舞。ドイツ軍に捕虜になった時には、ドイツ兵に演奏の感想を求めたという。退役後も、テムズ川で初のサーフィンをしたりと、生涯冒険家だった!
第三の男は見ていた冬枯野風来松