238. 角兎

世界中に角のある兎の伝説が残る。

ジャッカロープは、アメリカワイオミング州等に棲息する。「jackrabbit=野ウサギ」+「antelope=レイヨウ」の造語。レイヨウではなく鹿のような角の生えた兎の姿。キジの後脚と尾とも。群で行動し、カウボーイのキャンプ等に時々姿を現し、人の歌声を真似るという。素早いが、好物のウイスキーでなら捕まえられる。肉はロブスターに似た味。乳は万能薬とも、強力な媚薬ともいう。ただ、このジヤッカロープ、ネイティヴアメリカンの伝承には無く、白人の入植後に出てきた話らしい。発端は1930年代にハンターのダグラス・ヘリックスが作った剥製だとされる。彼はそれを〈ラ・ボンテ・ホテル〉の支配人に売り、そこで飾られて人気となった。1937年頭部だけ盗まれてしまったのだが、味をしめたヘリックスは剥製を大量生産したという。ワイオミング州ダグラスでは、ジヤッカロープの狩猟免許が発行されており、毎年6月には〈ジャッカロープ・デイ〉が開催される。

13世紀に、ペルシャの学者カズヴィーニーの記した『宇宙誌』には、一角の兎アルミラージが載る。インド洋の竜の島に棲む、獰猛な肉食獣で、あらゆる動物に恐れられている。アレクサンドロス大王が、退治の礼として貰ったとある。

16〜18世紀のヨーロッパでも、レプス・コルヌトゥスの存在が信じられていた。ウサギの身体に、シカの角、キジの羽という姿。コンラート・ゲスナーの『動物記』では、ザクセン州に棲息するとしている。16世紀、プラハを文化都市化し、錬金術にも興味を持っていた、ルドルフ2世のコレクションにもこれがあったという。あのフリューゲルも絵に描いている。

同時期のドイツのヴォルパーティンガーも、ほぼ同様の外見だ。バイエルンのマルペの森に棲み、小動物を捕捉して食べる。ふさわしい男に連れられた若く美しい女のみ、満月の夜に見られるとも...。また、スウェーデンにもスクヴェイダーなる角兎がいて、スンツヴァルの町のシンボルとなり、バスの愛称にもなっている。

他にも、メキシコのウイチョル族の言い伝えにも、角兎が登場する。

2005年8月、ジヤッカロープの死骸が発見され、角と見られるのは、〈ウサギ乳頭腫ウィルス〉による角状の腫瘍と結論付けられた。

句に詠んだのは、日本語の「兎に角」。「兎角」という言葉もある。元は中国の「亀毛兎角」から来ていて、あり得ないことの比喩。ところで、カウボーイ達が角兎を食べていたように、江戸の徳川将軍家も、正月三が日には、うさぎ汁を食べていたという!

秋の野や鞍のけ兎に角コーヒーを風来松