274. 灯台

前回も書いたが、興居島の隣に人口30人足らずの釣島(つるしま)がある。ひょうたん型の小さな島には、日露戦争の勝利を招いたり、跨った者を無事戦地から生還させたという馬石や、天狗が現れたり、疫病から島を守ったという〈五十鈴神社〉等の伝説が残る。かつては、松山藩の放牧地で無人島だったが、1863年に興居島から7名が移住。

その島に1873年、突如、外国人が上陸。島民は子取りが来たと驚き、女子供は山林に逃げ込んだ...! その人物こそ、「日本灯台の父」と言われるリチャード・ヘンリー・ブラントンであった! 当時、島にある民家は8軒だったという。ブラントンはいわゆる「お雇い外国人」の一人として、明治元年に来日。在日中の8年間で、和歌山串本の〈樫野崎灯台〉、千葉銚子の〈犬吠埼灯台〉等、計28の灯台を築いた。また、彼の日本行きを仲介した、〈スティーブンソン事務所〉の、トーマス・スティーブンソンこそ、あの『宝島』のロバート・ルイス・スティーヴンソンの父親だった! 愛媛県興居島の〈釣島灯台〉は、2024年1月国の重要文化財に指定された。

灯台の始まりは、紀元前7世紀、古代エジプトのナイル川河口の寺院の塔上で、火を焚いた時とされる。紀元前279年には、プトレマイオス1世が同エジプトフォロス島に、134mの〈アレクサンドリアの大灯台〉を建てた。今の世で最大の灯台は、フランスの〈イルヴィエジェ灯台〉で、83m。日本では、島根県〈出間日御碕灯台〉の63.3m。比べると、大灯台がいかに巨大だったか分かる。それ故、世界七不思議の一とされる。ただ、796年の地震で半壊。その後、灯台の下には宝が埋まっているという噂の為荒らされ、1375年の地震で完全崩壊して現存しない。現存する最古の灯台は、スペインガリシアのヘラクレスの塔。少なくとも2世紀から存在している。アレクサンドリアの大灯台を模して造られた塔の下には、ヘラクレスが退治した、3頭3体の怪物ゲーリュオーンの首が埋められているという。世界七不思議の中にある、ロードス島の巨像も、灯台の役目であったと言われる。

残念ながら、灯台に関する妖怪は見つけられなかった。『平家物語』・『源平盛衰記』に、灯台鬼が載るが、これは頭に灯台を乗せられて、見世物にされた遣唐使の軽大臣だった。

一方、さみしい場所のせいか、幽霊話はたくさんある。神奈川県〈観音崎灯台〉には軍人の幽霊が出る。広島県〈元宇品灯台〉でも老木で首を吊って死んだ自殺者の幽霊が。北海道〈地球岬灯台〉では、深夜に〈幸せの鐘〉が勝手に鳴るという。海外でも、アメリカ・コネチカット州ロングアイランド湾のペンフィールド灯台には、灯台守だったフレデリック・ジョーダンの幽霊が出ると噂で、1ドルで売りに出されている。カナダ・トロントのジブラルタルポント灯台にも、200年前の灯台守JPランダンミュラーが...。

描いたのは、トーベ・ヤンソン『ムーミンパパ海へ行く』の表紙。ムーミンパパは幸せで平和なムーミン谷を去り、一家で孤島の灯台に引っ越す。鍵も無く、明かりも点かず、我を忘れていくパパ。ホームシックとなり内にこもるママムーミンは、モランうみうまとの交流で、孤独や美の残酷さを知る。スナフキンはいない。唯一、いつも通りなのは、リトルミイ1人。誰の心にも灯台が立っている...。ちなみに、この作品の灯台のモデルは、フィンランドの〈ソーダーシャール塔〉で、1864年に建てられた古株である。

冬の灯の目玉の奥の奥の奥風来松