2. 百鬼夜行

平安時代の京の闇夜を練り歩く、妖怪の行列。

運悪くこれに遭遇した者は、一族郎党死に絶えるとされ、非常に恐れられた。陰陽師百鬼夜行の出現日を予測し、人々はその日の外出を避けた。それぞれの月毎の日にちが『口遊』や『拾芥抄』に残されている。

百鬼夜行の害を避けるという呪文もあり、「かたしはや えかせにくりに くめるさけ てえひ あしえひ われえひにけり」と言う。

『今昔物語集』には、藤原常幸が愛人宅へ向かう途中、美福門あたりで遭遇した話や、若き日の安倍晴明がいち早くこれのを見つけ、師匠・賀茂忠行に感心された話が載る。『江談抄』でも、小野篁と藤原高藤が。

描かれたものでは、なんと言っても室町時代の土佐光信の作と伝わる『百鬼夜行絵巻』が有名。大徳寺真珠庵に伝わる。絵に描いたのは、この絵巻のトップバッターの青鬼。ただ、ここにいるのは、器物が長い年を経て変化した付喪神が大半。かつ、ユーモラス! 京の人々が怖れた百鬼夜行は、江戸時代に鳥山石燕により描かれた『画図百鬼夜行』の方が近いと思われる。

こちらは、まさに妖怪大図鑑といった趣で、天狗河童猫又鉄鼠犬神牛鬼絡新婦姑獲鳥山姥山童雪女火車手の目反枕塗仏おとろしぬらりひょんぬっぺらほふ元興寺...と、これから取り上げる妖怪達の目次にしてもいいくらいだ!

現代でも、これを元ネタに京極夏彦が『百鬼夜行』シリーズと呼ばれる小説を書いている。映画では、塚本晋也監督『悪夢探偵2』の百鬼夜行めいたシーンが恐ろしく、印象深い。

ヨーロッパでも、これに似たワイルドハントというのがあり、いつか取り上げたい。

最後に、句は正岡子規。怖がりだったようだが、妖怪は好きだったようで、〈妖怪句〉というジャンル分けまでして、多く作句している。これもまた、別の機会に。

宿替の百鬼群れ行く野分哉正岡子規