20. 人魚

世界中の民間伝承において、半身半魚の姿で語られる。主に若い女のマーメイドが一般的だが、男のマーマンや、もっと怪物じみた物も。嵐・難破・洪水等の災害と関連付けられるが、人間との恋物語も多い。

有名なドイツ・ライン川のローレライ、フランスの水の精メリェジーヌ、デンマークのハウフル・アイスランドのマルメニルは共に、予言獣。アイルランドのメロウ・スウェーデンのシェローは、嵐、不漁を起こすとして漁師に怖れられている。後者では、これを見たものは人に話さず、火打石と鋼器で火花を立てる。中国の『山海經』にも、氏人陵魚が。台湾サオ族に伝わるタクラハ、グアムのシレナ、ニュージーランドのマオリのリー、ブラジルイアーラ、ジャマイカリバーマン...と、枚挙にいとまがない。

歴史的には、やはり『ギリシャ神話』のセイレーンなのだが、元々はこれ半身半鳥で、キリスト教の時代に半信半魚となった。紀元前に大プリニウスの『博物誌』に書かれた、男のトリトン、女のネーレーイスとの混同かもしれない。大航海時代には、コロンブスがイスパニョーラ島で目撃した他、北極海やグリーンランドでも。場所的にアザラシ等かと考えられるが、黒髪長髪の美女だったと男達は証言している...。

さて、それでは日本では...というと、やはり人魚の肉を食し不老不死となった八百比丘尼。作家で民俗学者である藤澤衛彦によれば、480年の事だと言う。(因みにこの人物、水木しげる御大に大影響を与え、当時のアシスタントつげ義春と、自宅にも押しかけたらしい!)その約百年後、若狭から京都に来た時の彼女の姿は、15〜16歳のそれだったという。この話、元は高句麗の『浪奸物語』とも言われ、北海道内浦湾のアイヌソッキとも酷似している。

『日本書紀』には、摂津堀江で人魚が網にかかったとある。南方熊楠は、川だけにオオサンショウウオではと推測している。聖徳太子は、これを凶兆として観音菩薩を立てたという。その後も、出雲安来、能登珠洲岬等に出現。1153年、伊勢別保では人魚を食べたところ、美味だったと『古今著聞集』に載る。鎌倉時代には記録が多い。というのも凶兆とされる為、鎌倉殿への報告が義務化されていたらしい。江戸に入ると、井原西鶴や、山東京伝の物語にも登場。しかし、まだ西洋の美女人魚のイメージは入っておらず、例えば1805年、越中富山に現れたのは、10メートルもある金の角のある怪物で、四百五十丁の銃で仕留められたという。また、1819年肥前に現れた神社姫、1846年肥後のアマビエ(コロナ禍ですっかり有名になった)は、共に予言獣だが、やはり奇天烈な姿である。江戸の頃には、盛んに人魚のミイラも作られ、西洋向けの土産物として、人気を博した。今もや和歌山県西光寺、福岡県龍宮寺、岡山県園珠寺などに存在する。P・T・バーナムの見世物や、大英博物館でも展示された!

創作では、先に挙げたアンデルセンの『人魚姫』、そのディズニー版映画『リトル・マーメイド』、日本版とも言える小川未明『赤い蝋燭と人魚』。岩井俊二の小説『ウォーレスの人魚』。絵画ではジョン・ウィリアム・ウォーターハウス『人魚」。マンガでは高橋留美子の『人魚』シリーズ等。

最後に人魚といえば、あのSTARBUCKSのロゴ! 名前の由来は、『白鯨』に登場するコーヒー好きの航海士スターバックとも。なるほど、それでセイレーンのロゴマークか! 南太平洋には、そのセイレーンにより多くの船員が命を落としたという、その名もスターバックスなる島もあるという!

描いたのは、恐ろしくも美しい五十嵐大介の絵本『人魚のうたがきこえる』より

翻り虹に消えゆく人魚の尾時計子