56. 隻腕

何らかの理由により、片方の腕のない状態。本来こういった内容に触れるのは、無神経だろうと思う。今回、それは承知の上で、筆者が馴れ親しんだ物語の中に登場する〈隻腕〉…というか、片腕の喪失に触れてみたい。もし、これを読むことで気分を害される方がいたなら、すみません。この頁は飛ばして下さい。

まず、筆者が最初に片腕を失うショッキングな映像を見たのは、『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』だった。(あ、私、極度のスター・ウォーズマニア=フォースジャンキーです。)主人公ルーク・スカイウォーカーは、宿敵ダース・ベイダーが自分の父親であると知らされた直後、片腕をライトセーバーで切り落とされる! それから、現実の世界で25年後『スター・ウォーズ/シスの復讐』において、今度はアナキン・スカイウォーカー(後のダース・ベイダー)が息子と同じく、片腕を切り落とされるというシーンを見せられる事となる!ジョージ・ルーカス監督は『スター・ウォーズ』を作るにあたり、世界の神話を参考したという。父と子というだけでなく、親子2代にわたり片腕を失うというエピソードは何とも意味ありげだと思う。

時代は再び筆者の子供時代に戻る。その頃『少年ジャンプ』で、いい意味でバタ臭い異色のマンガ『コブラ』が連載されていた。主人公コブラの片腕には、サイコガンというビーム銃が付けられていた。実はこの手、かつて宿敵クリスタルボーイに切り落とされたもので、二人は輪廻的に永遠の時間の中で戦い続けていた…。その後も『ジャンプ』では、『ジョジョの奇妙な冒険』のジョセフ・ジョースター、『ワンピース』のシャンクス…と、やはり片腕を失うキャラが…。

映画においても、『片腕ドラゴン』、『片腕サイボーグ』、最近ヒットした『マッドマックス怒りのデスロード』のフュリオサ等がいるが、この辺はそう意味はなさそう…。邦画では、あの丹下左膳が隻眼隻手だった!『丹下左膳 百萬両の壺』は、筆者のベストテンに入ってもいい作品なのだが、あまり隻手というのは印象には無かったな…。

後は、『ピーターパン』のフック船長、アーサー王の円卓の騎士の一人・ベディヴィアがいる。(エクスカリバー湖の貴婦人に返す役どころ。)

では、神話ではどうなのかというと、意外と見当たらない。『北欧神話』の軍神テュールは巨狼フェンリルを拘束する際、あえて誘いに乗り右腕を食いちぎられた。また、神々の一族の王ヌアザも戦いの中で片腕を失い王座を退くが、後に医神ディアン・ケヒトの銀の義手を得て王座に返り咲いた。そのくらいである…。

前述のヌアザの逸話では、完全な身体を持つ者のみが王の資格を得るとされている。おそらく、も同じような理由で、隻腕や隻眼のものはいないのだろう。そして、失った手の代わりに義手や武器を得るパターンも多い。何か大事な物を失う代わりに、別の何かを得るというメタファーなのかもしれない…。

さて、描いたのは、これまた筆者のマンガ・ベストテンに入る、松本大洋『竹光侍』から。主人公・瀬野宗一郎が最後の戦いで片腕を斬り落とされさ、それを愛刀・国房の霊が、彼に宿る妄執や狂気と共にあの世へ持ち去るというシーンである。

冬ざれにまた斬り落とされさし左腕風来松