42. 獏

悪夢を食べる妖怪。

江戸中期の『和漢三才図会』には、熊に似て頭小さく、目も小さい、足短く、毛は黒白の斑紋、短毛光沢あり、黄または蒼白色とある。また、中国『本草綱目』からの引用と思われるが、象の鼻、犀の目、虎の足。鋼鉄・竹を食す。骨や歯は硬くて頑丈、刀・斧も砕け、火でも焼けない。その為、これを偽って〈仏舎利塔〉に納めたりしている。また、毛皮は湿病・疾患・悪気を避けるの図を描き悪疫を退けたとある。

江戸では大晦日や正月一日に、獏図を敷いて寝たり宝船の帆にも「獏」と書いたりした。室町時代には既に縁起物として用いられている。

中国最古の語訳辞典『爾雅』には、は白豹であるとあり、これはジャイアントパンダだという説もある。また、やはり邪気を避けると言われる白澤や、夢を食うとされる伯奇、『唐六典』にある十二神の一莫奇等が、日本に入ってきた後と混同され、悪夢を食べる妖怪となったと考えられている。

ただ、実在の動物であるバクも、このが語源とも言われ、かってはマレーバクが中国に生息していたという説も。釈迦の乗り物だったとか、タイでは神様が余り物で作ったという話もある。

熊本や福島、秋田では、悪い夢を見ると「獏にあげます」と三回唱える習慣がある。

豊臣秀吉もの絵や獏枕を所持していて、今も京都の〈豊国神社〉に残る。悪夢を食べてくれたかどうかは不明だが、主君であった織田信長の、三足の蛙の香炉は〈本能寺の変〉の折、鳴いて危険を知らせたという!

絵は、江戸時代の浮世絵師・礒田湖龍斎の『錦絵 獏』。

獏枕いづれの夜にぞ目覚めたる有馬朗人