36. 吸血鬼

血を吸い、それを栄養源とする妖怪。不死・蘇った死人という設定が多い。これに血を吸われた者も吸血鬼となる。容姿は美しく、態度は紳士的。魔眼であったり、人を魅了する力があったりする。蝙蝠、鼠、虫、霧等に変身。日の下では活動出来ず、日中は棺桶で眠っている。他にも苦手は多く、十字架・聖水、ニンニク、野バラ、サンザシ、塩、鏡。流水もダメで、ギリシャではこれを利用して無人島に閉じ込め餓死させるという。また、招待を受けない限り家には入れない。死人が吸血鬼とならないよう、死体の首や足を切断したり、棺桶の上に、砂・ケシ・キビ等を置く。退治には、心臓・口・胃等に杭を打ち込む。杭は、サンザシ・オーク・トリネコ。銀の弾も効く。また、粒状の物は数えられずにはいられない性分。(これは、日本の妖怪でもよくある。)『セサミストリート』のカウント伯爵のキャラクターもここから! 

以上は、これまでに形作られてきた吸血鬼像を大雑把にまとめた物。元々は、チェコ・アルバニア・ルーマニア等、東欧の伝説だ。ルーマニアのストリゴイは、人が死後400日でなるという。よく知られる名前はヴァンパイア。スラブ系民族の間で4世紀頃には発生したと思われるが、元は妖怪魔獣といった広い意味で使われていた。少なくとも11世紀には吸血鬼の意味として使われている。 

19世紀には、小説家で医師のポリドリが、患者であった詩人バイロンをモデルに『吸血鬼』を執筆。その後、東欧の伝説と合わさり、有名なブラム・ストーカーの『ドラキュラ』が生み出された。モデルは、15世紀のワラキア公ヴラド3世。「ドラキュラ」の意味は「小竜公」。痩身長駆にマント、前述の吸血鬼イメージがここで確立された。 

もちろん吸血鬼は、古今東西至る所に出現してきた。古代ギリシャのラーミア、古代バビロニアのアフカル、ポルトガルブルーカ、ドイツドルド、アラビアのグール、マレーシアスンダル・ボロン、フィリピンマナナンガル、オーストラリアヤラ・マ・ヤー・フー、ハイチルーガル、ガーナ、トーゴのアサンボサム、中国のキョンシーも血を吸うとされる。メキシコのチュパカブラ。(「チュパ」はスペイン語の「吸う」。〈チュパチャプス〉!) 

日本で吸血鬼の言葉を使ったのは、南方熊楠とされていたが、1914年、我が伊予松山出身の冒険小説家・押川春浪の作品に既に登場している。 

では、日本の妖怪は…というと、これが意外に多くない。九州の沿岸部に現れる磯女は半人半龍といった姿で、長い髪で血を吸うという。濡れ女子磯姫とも。元々、仏教で女犯を戒める言葉から生まれた飛縁魔は、菩薩のように美しい夜叉。昭和の頃から、吸血鬼という設定が生まれた。化け猫野衾ツチノコも血を吸うとされる。樹木子(じゅぼっこ)は、戦地などで大量の血を吸った木がなるというが、星新一や小松左京時代のSF作家・斎藤守弘の創作と思われる。 

実際、吸血鬼と狂犬病の類似点があげられたり、リンフィールド症候群なる吸血衝動にかられる病が発表されたり(パロディだった…)、一方でマラウイ共和国では、2017年に吸血鬼と疑われ100人以上が逮捕されたりもしている…。 

もちろん、創作でも暇なく新作が生み出されてきた。前述の『ドラキュラ』は、無許可で『ノスフェラトゥ』としてドイツで映画化。アメリカの『魔人ドラキュラ』。日本では『吸血鬼コケミドロ』! 近年ではアン・ライスの『夜明けのヴァンパイア』が、『インタビューウィズヴァンパイア』として映画化。2014年のイラン映画『ザ・ヴァンパイア〜残酷な牙を持つ少女』は斬新だった! 

日本のマンガ界でも、古くは萩尾望都『ポーの一族』、手塚治虫『ドンドラキュラ』、藤子不二雄『怪物くん』、近年のでは冬目景の『羊のうた』が秀逸だった。描いたのは、筆者が、学生時代から大ファンの『ジョジョの奇妙な冒険』の、ディオ・ブランドー

ドラキュラの末裔なりしトマト吸ふ木村みかん