330. 鯨

鯨偶蹄目。分類的にはイルカもシャチも同類。約80種がいる。元々は陸上にいたものが海へ進出したと思われ、カバと共通の先祖。

鯨と言われて思い出されるのが、メルヴィルの『白鯨(モヴィーディック)』。1859年にチリに実在した悪名高き〈モカ・ディック〉がモデル。そして、やはり『ピノキオ』。こちらのモデルは『旧約聖書』でに反した為、鯨にのまれたヨナだろう。同じく、『聖書』に登場するリヴァイアサン、鯨座のケートス、北欧の海蒸気(ハーヴグーヴァ)...クジラをモデルにした海の怪物は世界中に伝説が残る。

もちろん、怪物としてだけでなく神聖視もされてきた。古代ギリシャではイルカ・シャチを神とし、ポリネシアの神タンガ・ロアは鯨の姿。マオリは、始祖パイケアがクジラに乗ってきたと伝える。ベトナムでも魚翁カー・オンを祀り、鯨寺や、鯨祭りもある。

カナダでは、鯨が人間になったと言われ、アメリカインディアンのマカ族は、小人が燃やす鯨油がオーロラになると考えた。

妖怪では、化け鯨。白い骨格のみの姿で、水木しげるの故郷島根半島沿岸に出現。骨くじらの全長百mの骨は、1983年石川県鳳至で発見された。同県には、能都や珠洲でも死者が鯨になり、恩返しに戻って来ると言った話が多く伝わる。

青森県八戸鮫浦の鮫浦太郎は荒れた海から若者を助けた鯨で、それ以降も毎年鰯を引き連れて現れた。が、熊野浦でモリを打たれて打ち上げられ、〈西宮神社〉に鯨石が祀られている。同地には、日の出のオナイジという話もある。大漁をもたらしていた鯨が、熊野に位を貰いに行く途中で捕らえられ、この肉を食べたものは全て死亡したという。鯨が、熊野や富士に、詣でるという話も多い。夢枕に立って見逃してほしいと頼むのを断り、災いが起こるといった内容。山口県・三重県・長崎県・佐賀県等、広く伝えられる。

また、日本各地て、鯨などの大型海獣は、エビスと呼ばれ、浜に打ち上げられた際は神からの贈り物と考えられた。現代でも、打ち上げられた鯨を売り小学校を新築したという例が、熊本県水俣市はじめ、全国に7校もある!

さて、句に詠んだのは、最近小説にもなり話題となった世界一孤独な〈52ヘルツのクジラ〉から。また、描いたのはライアル・ワトソンの遺作となった『エレファントム』より、南アフリカの象〈太母メイトリアース〉と鯨の邂逅の場面。2008年に発見された伊藤若冲の『象と鯨図屏風』もこのシーンを思い出させた!

海と陸Hzあわせる象鯨風来松