37. タンス転がし

土佐はの多い土地である。その中央部加美郡だけでも、けち火古杣、物部のいざなぎ流等、様々な話が伝わる。

赤岡は、幕末の浮世絵師・血みどろ絵金こと、弘瀬金蔵で有名な土地である。彼の門人には、河田小龍や、武市瑞山もいる。その赤岡の、〈絵金蔵〉のすぐ裏の路地に、タンス転がしが現れるという。描いた地図は、現地で貰った〈町歩きマップ〉。初めて知ったこの妖怪を、図書館や、ネットで調べ、人にも聞いて回っているのだが、全く手がかりがない...。

転ばし系妖怪は、多くある。どこからか転がってきて、人を転がすというもの。長野のイジャロコロガシ、高知幡多のタテクリカエシ、宿毛の雪道に一本の足跡を残す手杵返し、青森八戸・岡山游久郡のテンコロコロバシ...。

そして、福島県・山口県の鑵子転ばし...。鑵子とは、湯を沸かす器なのだが、「カンス」と「タンス」...非常に似ている...。妖怪の名前や姿が時代を経る中で、聞き間違いや混同により変化するというのはよくある話である。

いつか、もう一度赤岡〈絵金蔵〉に行き、真相を突き止めたいと思っている...。

絵金祭りの路地にだけタンス転がし風来松

追記

迷宮入りかと諦めていたたんす転がしに、まさかの有力情報が! 近森敏夫『土佐のわらべうたの記』に、赤岡のわらべうたとして次のようなものが載る。「たんす転ばし 油買いなら早よいてこんし、寺尾屋敷の猫の眼ひかる、路地のばんかた子を取ろ子取とろ、たんす転ばしでて通る、やあい、やあい、走ってころんで、らんぷのほや湧るなよ。」 近森によると、土佐赤岡で夕暮れに出て子ども達を呑み込み攫って行くという。いやはや、驚いた! 本当にいたか...たんす転がし!!