昔から、そして今でも洞窟に惹かれている。原点は、前にも書いた幼い頃からよく行っていた四国霊場五十一番札所〈石手寺〉の〈マントラ洞窟〉か。金剛界胎蔵界を模している。広島時代は、お隣山口の鍾乳洞〈秋芳洞〉へも何度も訪れた。
洞窟は世界各地で古くから住居・貯蔵庫・墓地…、そして信仰・祭祀・修行の場ともされた。四十五番札所〈岩屋寺〉の洞窟では一遍が修行、熊本の〈霊岩窟〉は、宮本武蔵が『五輪の書』を書いたことでも知られる。彼は坐禅中に現れた光明をも斬り捨て、己の悟りに達したという!
古来より洞窟には猛獣・妖怪・魔物も棲んだ。酒吞童子は大江山の洞窟を寝蔵とし、大多鬼丸も福島田村滝根の鬼穴に。桃太郎の鬼ヶ島は香川女木島の大洞窟だと言われ、金太郎も信州八坂の洞窟で育った。奈良小原仏ヶ原には大蛇(コンジャ)の穴がある。石川の崖の下の洞窟に棲んだオリヤ様は、人々に力を貸してくれる古狐だったが、〈本願寺〉へ参る途中に正体がバレて殺されてしまった。アイヌにも、白老町にあの世への入口アフンルパロがあり洞窟に住む怪鳥フリカムイも伝わる。
海外でも、ドラゴンを筆頭にトロルやドワーフ等、洞窟のイメージのあるものが多い。
神仏も洞窟に深く縁がある。
日本神話の天岩戸、イザナギとイザナミの黄泉の国への洞窟、宮﨑の〈鵜戸神宮〉の洞窟では豊玉姫が鵜葺草葺不合命(うがやふきあえずのみこと)を産んだ。富士の噴火で作られた人穴には浅間大菩薩が棲むという。『吾妻鏡』には、1203年源頼家がこの穴の探索を命じたが、謎の声が聞こえたり、大河の向こうの光の中に人影が現れたりして、家来四人が急死したとある! また、後に人穴で修行した長谷川角行が〈富士講〉を創始し、この地は一大聖地となった。
海外でも、ギリシャ神話ではゼウスがクレタ島の〈ディクテオン洞〉で生まれ育ち、北欧神話では死者の国への入口グニパヘリルが登場する。
UMAも多く洞窟にいる。
南アフリカ北ケープ山の底無し洞窟に棲み、宝石を守っているのは蛇の尾を持つ巨象グローツラング。アマゾンには巨大ミミズミニョーカオン、カメルーンにはあのイヴァン・サンダーソンが紹介した巨大コウモリオリティアウが。インドネシアのアフールもこれに似る。ヨーロッパで有名なのが、ネコのような頭部を持つドラゴンタイプのタッツェルブルム。19〜20世紀に目撃が相次いだが、2009年にもスイス・イタリア国境で目撃されている。
妖怪や魔物を抜きにしても、洞窟は魅力的だ。日本の最延長の洞窟は、岩手の〈安家洞〉で23700m。次いで鹿児島の〈大山水鏡洞〉の10483m。前述の山口〈秋芳洞〉は第4位。世界ではアメリカケンタッキー州の〈マンモス・ケーブ・システム〉が約660000mとダントツの1位! 洞窟バカこと、吉田勝次も訪れるベトナムの〈ソンドン洞〉も有名。また、彼が2025〈植村直己冒険賞〉を獲る事となったラオスの〈ナムロッド洞窟〉も世界最大級の可能性がある。
最後に世界的な破格の穴を紹介する。
まず一つ目はベネズエラ・ギアナ高地のテーブル・マウンテンの一つ〈サリサリマーニャ〉。ここの山頂には幾つもの巨大な陥没穴がある。可愛らしい名前だが、これは現地のジェクワナ族が恐れる人喰い鳥の悪霊が人を食べる音に由来する。立入りは制限されているが、観光ツアーもあり、2002年にはNHKも取材した。
2つ目が、ロシアコラ半島の〈超深度掘削穴〉。地球の地殻調査の為に掘られたもので、1989年人類最深の12262mに達した。ソ連の解体に伴い、調査は中止されたが、その穴から地獄の声(ネット上で聴けます)が聞こえたという都市伝説がある。
最後は、メキシコユカタン半島の〈チクシュルーブ・クレーター〉。6600万年前、恐竜等の生物大量絶滅を引き起こしたと言われる小惑星の衝突でできたとされる巨大な穴だ。
さて、絵に描いたのは子供の頃テレビでやっていた『水曜スペシャル・川口浩探検隊』である。よく洞窟を探検しては、CMの前に「あ! あれは何だー!?」と煽りつつも、たいしたことは何も起きないというお決まりが笑えた。双頭の蛇や大蛇も出てきたりして、最後は海に抜けるというパターン。後に観た『グーニーズ』も似たような展開だったが、洞窟を抜けて海が広がっている光景というのは、なぜだか感動してしまうんだよな〜…。
「あ! アレは何だ〜!!?」いや穴惑いしてるだけです風来松