ヘルハウンド・黒妖犬とも。絵に描いたコナン・ドイルの『バスカビル家の犬』でも描かれた。
イギリス全土で古くから目撃されており、人を襲う。黒光りする毛、燃えるような赤い目、閃光を伴い姿を消したり、突如現れたりして、強烈な硫黄臭を残す。
14世紀、デボン州ダートムーアに現れたのが最初だとされる。1577年8月4日サフォーク州〈ブライスバーグ教会〉では2人が殺害される。その直後にもまた2人。教会の扉には今も爪痕が残る。1972年にもデボン州の農場に出現。同年イーストサングリアにも。近年でも、アーメンコートの〈ニューゲート監獄〉で目撃された。
モデルは、ウィリアム・シェイクスピア『マクベス』の中の、魔女の女王である地獄の女神・ヘカーテの猟犬たち、と言われる。ヘカーテは『ギリシャ神話』の女神。月・魔術を司る冥府の一柱。3つの体を持ち、松明を手に地獄の番犬を連れ、三叉路や十字路に現れる。日本の辻と同じように、西洋でも交差する路には、神や精霊が現れると言われる。
よく似たものにチャーチグリムがいる。これは、イギリスでは新しい墓を作る際、最初に埋められた死人は天国に行けず、墓地の番人になると言われるが、その代わり埋められた黒犬がこれとなる。ただ、チャーチグリムは、墓を守るだけで人は傷つけず、道に迷った子を助けたり、遠吠えで死者の魂の行先を報せる。
他にも、ハイランドの妖精たちの番犬クー・シー、凶兆とされるランカシャーのガイトラッシュ、サフォークの宝の番犬ギャリートロット、イーストアングリアの毛むくじゃらの大犬ブラックシャック、アイルランドのブーカ…等、イギリス界隈には犬タイプの妖怪が多い。
一説には、ブラックドッグは積極的には何もしないが、見たり、触れたりしたものを死に誘うと言う。また流れる水が苦手な為、川を横切ることはできない。更に、ブラックドッグを見ることのできる人と、そうでない人がおり、見えない人には手出しできないとも…。
黒犬を追う短夜の三叉路に風来松