450. 箸/匙
世界の約3割が箸を使っているという。中国・台湾・日本・韓国・ベトナム・シンガポール…その中でも匙を使わずに汁物も食べるのは日本だけらしい。
既に縄文時代の遺跡から、木や骨を削った箸や匙らしき物は出土している。弥生時代にもあったようだが、食事というより神事に使用したり、天皇だけが使ったりしていた。『魏志倭人伝』にも、倭人は手掴みで食事をしていたとの記述がある。ただ、熱いものを食べる時には何らかの道具は使用していたのだろう。中国では紀元前14世紀殷の時代の青銅の箸が最古の出土(木のものは残りにくい)。日本には、小野妹子が遣隋使の際に日本に持ち帰ったと言われ奈良・平安時代には一般に普及していたとされる。
アイヌの箸〈パスイ〉は、彫刻が施されたり、頭部に鎖がついていたりして、死者に副葬品として持たせる。子の一歳の祝いのものや、カムイに酒を捧げる一本のもの、イオマンテで使用するもの…等がある。沖縄にも、赤と黄の竹の塗箸〈ウメーシ〉がある。中国の〈筷子〉は長くて太さが均一。朝鮮の平たい金属製の箸〈젓가락(チョッカラ)〉は耐久性があり、衛生的で、毒見の意味もある。
「箸」の語源は、「挟む」もの、「橋・柱」から、鳥の「嘴」から、「端」の方で摘むもの…等の説がある。
箸は人と神を繫ぐとも言われる。『古事記』にも、スサノオが出雲国に降り立った際箸が川上から流れてくるシーンが。神功皇后が三韓征伐に出発する段でも、箸と柏の皿を海に散らすよう神託を受けるという場面がある。
また、多賀大社、高尾山、教行寺…等、全国各地に高僧や、貴人が突き立てた箸が神木になった等の伝説が多く伝わる。
そこまで大袈裟でなくとも、箸の上を持つ人は遠くへお嫁に行くとか、逆さ箸・迷い箸・指し箸は行儀が悪いと言われる。更に、渡し箸は遺骨を拾う時を、立て箸は死者に備える枕飯を思わせる事から、タブーとされる。
茶碗を箸で叩く、叩き箸は各地で悪いものを呼ぶと言われる。富山・岐阜・和歌山・熊本・大分…では餓鬼を。長野では狐、群馬ではオサキ、新潟では鬼、兵庫では貧乏神を。中国系マレーシアでも、食べ終わった箸の先を食器に入れるとお化けが出ると躾けられる。
また、野山で枝などで箸を作った場合、使用後は折って捨てないと祟りがあると言われる。これは、箸に使用者の霊が宿る為とされ、そのまま捨てておくと獣が遊んだりして、禍が振りかかるという。この為、現代でも割り箸は折って捨てるほうが良いとも。
さて、アジア圏の箸に対し、欧米はスプーン・フォーク・ナイフだ。これが同じく世界的に見れば3割で、残り4割は手。
やはり、旧石器時代から骨を削ったりして作られていたようだ。古代エジプトでは、宗教的な図柄が彫り込まれ、箸同様ファラオや書紀等の身分の高い者だけが使用したと考えられている。古代ギリシャ人も基本手で食べ、熱い粥等にのみ使用したとされる。一般に普及したのは17〜18世紀になってから。
洗礼式で匙が贈られるのだが、貧富や身分の差で材質に違いが出るとこから、裕福な家庭に生まれたものは〈銀の匙〉を、そうでないものは木の匙を咥えて生まれると言われる。有名な中勘助の小説『銀の匙』。荒川弘のマンガの題名にもなっている。ちなみに「匙を投げる」は、医者が使っていた医療用のものから。
スプーンの語源は、古代アングロサクソン語の「かけら」「木片」。また匙の方は、かつては貝殻で作っていた「かひ」からとか、茶道具の茶匙「さし」からと言われる。
欧米においては、食器を鳴らす事については悪い意味は無く、よく映画等で注目を集める時にグラスをチンチンとやったりしてるのを見る。食器の鳴る音が悪霊を祓うとも言われる。
そういえば、名古屋に住んでいた時に、ラーメンチェーンの〈スガキヤ〉に行くと先割れスプーンが出てきた。筆者の小学校時代、給食にもこのスプーンが混ざっていたのを思い出す。箸が使えなくなるとか、犬食いをするようになるとかで、今ではお目にかからないが。この形状のものは中世からあったと言われ、1800年頃に大量生産されたという。都市伝説では、マッカーサーが発明してGHQが導入したとか、戦時下のドイツで作られたとか…。また、コンビニで貰うプラスチック製のものは、ケンタッキーフライドチキンがコールスロー用に作ったのが始まりだとか…。
さて、絵に描いたのは、昔TVでやっていた『スプーンおばさん』。何かの拍子でスプーン大の大きさになってしまう主人公のおばさん、スプーン・ビヨルンが動物なんかと協力していろいろな問題を解決するというお話。今回調べてみて初めて、この物語がノルウェーのアルプ・プリョイセンの作だと知った!
三伏やちやんちき鳴らし呼ぶ祓ふ風来松