178. お菊さん

井戸から夜な夜な現れて、皿の枚数を数える亡霊

有名なのは姫路と江戸だが、実は、北は北海道から南はさつま市まで、全国に同様の怪談話が伝わる。一説には、48もあるとか!

件の皿も、彦根市長久寺に残る。

元は、神奈川平塚宿の旗本屋敷へ奉公し、殺された菊(24)の話。昭和24年、お菊の井戸を移転した際には、センダンの木の下三尺より座り姿で現れた。彼女の父親が詠んだ「あるほどの花投げ入れよすみれ草」は有名。後に、夏目漱石が大塚楠緒子の葬儀で「あるほどの菊投げ入れよ棺の中」と詠んだ。

姫路は、「播州皿屋敷」。室町時代、細川家に謀反をおこした家老・青山鉄山の話が舞台。お菊も忠臣・衣笠天信の妾で、間者として潜入中に企みを知ってしまい殺害される。姫路城にも、お菊井戸があり、何度か調査もされた。1975年ここで大量発生したジャコウアゲハは、その蛹が後ろ手に縛られた女に見える事から「お菊虫」と呼ばれ、お菊の祟りと言われた。

一方、江戸の「番長皿屋敷」は、徳川秀忠と江の娘・千姫の屋敷に住む、火付盗賊改・青山主膳の奉公人・菊(16)。中指を切られた恨みか、後に生まれた主膳の子にも中指が無かった...。了誉上人により成仏し、お菊塚に祀られている。この物語は、講釈師・馬場文耕(歴史上、芸によって処刑された唯一の人物。筆者と同じく伊予出身! 現在、沢木耕太郎が朝日新聞に『暦のしづく』として連載中)の『皿屋舗辨疑録』を嚆矢とする。

歌舞伎、浄瑠璃でも演じられ落語にもなった。

落語では、お菊の井戸へ幽霊見物に行く若者達の話になっていて、九枚まで数えるのを聞くと死んじまうってんで、だいたいは六枚くらいで逃げ出しちまう。ただ、このお菊が滅法いい女ときていて、連日のうち見物人も百を超える始末。ある日、九枚まで数えた後、「十枚、十一枚...」と続くので、どうした事かと問うてみると、お菊「風邪気味なんで、明日の分もやっております。」お後がよろしい様で。上方落語の三代目桂春団治が得意とした。古典落語には、念仏を「なんまいだー」と唱えると、お菊が「どう勘定しても九枚です。」というオチも。

落語で落としたのは、この句の俳人が落研出身という事と、筆者は妖怪は好きだが、幽霊は苦手という事とで。

九枚の次はきくまい皿屋敷ウイスキー詩人