421. 両面宿儺

頭の前後に二つの顔をもつ鬼神。四本の手には剣・斧を持ち、二張の弓矢を用いる。ひかがみと、踵は無い。

『日本書紀』では、両面宿儺は仁徳天皇の時代の飛騨の人物。天皇に従わず、人民から略奪することを楽しんでいた為、和珥臣(わにうじ)の祖、難波根子武振熊(なにわのねこたけふるくま)に退治されたとある。土蜘蛛大嶽丸等と同様に、中央に従わなかった豪族だと思われる。

一方、飛騨では、仏教を伝えたとか、農業を指導した等とも言われている。「すくなさま」「両面さま」と呼ばれて慕われ、祭りも行われている。宿儺かぼちゃという伝統野菜もあり、近年ではゆるキャラすくなっツーも誕生した! 高山の丹生川では救世観音菩薩の化身で〈千光寺〉を開いたとされる。また、〈善久寺〉の『両面宿儺出現記』には〈出羽が平〉の山上が大鳴動して岩壁が崩れ、岩窟より現れた…と、まるでドラマ『西遊記』の孫悟空を彷彿とさせる記述が。高山の南西にある〈位山〉のである七儺(しちな)、〈大日山〉の毒竜を退治したとも伝わる。

音だけでいえば、あの少彦名命(スクナビコノミコト)の「スクナ」と同じことから、海の向こうから来た同族という説もある。

多頭・多腕というのは、世界中で見られるモチーフで、アシュラ千手観音・『ギリシャ神話』の巨人ヘカトンケイル…等。武力・暴力・多くの益や知などを象徴している。四つ目六本腕の中国の蚩尤が、両面宿儺と関係があると言う説もある。

2025年、両面宿儺のミイラが発見されたという話が出た。場所は岩手県のとある古寺。ミイラが入っていた古くて黒い箱を住職が禁じていたにも関わらず、バイトの中国人二人が開けてしまい、一人は死亡。もう一人も精神に異常をきたしたという。実はこれ、大正時代に物部天獄を名乗る密教系のカルト教団の教祖が、見世物小屋から買い取った人間を、蠱毒の儀式を行った上、殺害、ミイラ化したものだという。ただ、元ネタは〈2ちゃんねる〉なので、かなり創作臭い…。

さて、今回両面宿儺を取り上げるきっかけとなったのは、ある子供の口からこの名が出た事による。そう言えば、よく知っている名のはずなのに、これまで思い出さなかったな…と、すぐに感じたのには、理由があった。まず、子供がこの名を知ったのは、恐らく今流行のアニメ『呪術廻戦』からだと思われる。調べてみて初めて知ったが、同名の重要キャラがいた。

余談になるが、かって『マンガ』のテーマで妖怪等に纏わる作品を羅列してみたが、その後2025年現在、引き続きこのジャンルは盛況で『呪術廻戦』以外にも、『ダンダダン』、この愛媛の伊予市が舞台となっている『わたしを食べたい人でなし』…等がヒットしている。

さて、話を戻すそう。筆者が両面宿儺の名をよく知っていると思った理由は、昔読んでいた小説、藤川桂介の『宇宙皇子』。確か、12、3歳頃だったと思うが、父親が珍しく近所の本屋〈明屋書店〉に連れて行ってくれて、何でも好きな本を一冊買ってくれると言う。今ではもう、なぜこの本を選んだかは思い出せないのだが、それが『宇宙皇子』だった。飛鳥時代から始まる、歴史ファンタジーで役小角のもとで成長していく少年が主人公。藤原不比等も、大津皇子も教科書で習う前に、この本で知った。主人公達が体制に逆らい庶民たちを救うというストーリーだったが、その中で確か両面宿儺が登場したと思う。

この後、筆者の読書ライフは様々なジャンルに広がっていくのだが、出発点はこの『宇宙皇子』だった。ほどなく、『グイン・サーガ』や『アルスラーン戦記』、海外の『指輪物語』や『ゲド戦記』も読み始め、どっぷりファンタジーの世界に浸っていた時期だった。しかも、幸か不幸か、どの作品もやたら長いシリーズとなった…。

B面は甘き宿儺のかぼちゃかな風来松