413. 宝石

『涙』の回で、アフロディーテの涙が地上に落ちて〈ダイヤモンド〉になった…と書いたが、宝石には多くの逸話がある。

宝石…希少性が高く、美しい外見を有する鉱物。硬度が高く、衝撃に強く、耐熱性もあり化学薬品に侵されず、変色もしない。

〈ダイヤモンド〉〈ルビー〉〈サファイア〉〈エメラルド〉〈オパール〉〈トパーズ〉〈ガーネット〉〈ラピスラズリ〉〈アレキサンドライト〉〈翡翠〉〈琥珀〉〈珊瑚〉〈真珠〉…。

〈宝石〉に縁も関心もない筆者でさえ、それらの名前だけは、すらすら出てくる。

さて、そんな中でも『宝石の王様』〈ダイヤモンド〉は最も耐久性に優れ、モース硬度は最大の10(ただ瞬間的な衝撃には弱く、一定の面には割れてしまう)。語源はギリシャ語の『不滅=adamas』。古代ギリシャ・ローマでは流星の欠片、ヒンドゥーでは稲妻が石に当たって出来るとされた。古くから魔除け・お守りとして用いられる。1839年にヴィクトリア女王の結婚指輪に用いられた事で、一般にも広まった。

〈エメラルド〉は、ルシファーの第三の目の欠片が地上に落ちたものと言われる。古代ローマでは、ヴィーナスに捧げられ、中世ヨーロッパでは来世予言するとも。古代エジプトでも人気で、クレオパトラにも愛された。サンスクリットの医術では解毒等の作用があるとされた。

〈サファイア〉は、〈ダイヤモンド〉に続く硬度9。ゼウスと敵対したプロメテウスが最初に身に着けたと言われる。この石もまた、予言を聴く儀式に用いられた。また、あのモーゼの十戒の石版が〈サファイア〉だったという(〈ラピスラズリ〉説も)。仏教では、献身と悟りを呼ぶ石。インドでは秘薬魔除けとされたが、ヒンドゥー教では不吉な石とする。

赤い〈サファイア〉が、〈ルビー〉。こちらはヒンドゥー教では太陽の力とされクリシュナに、仏教でもブッダに捧げられた。また、インド・アラビア・ペルシャ等では秘薬とされた。

〈オパール〉は、古代ローマではの石とされた。幸運の御守りにも。アラブでは、天から落ちた稲妻がこれになったと言われる。ウィリアム・シェイクスピアは『宝石の女王』と書いた。

〈アクアマリン〉は、古代ヨーロッパの船乗り達の御守りとされた。船乗りに恋した人魚の涙がこれになったとも。

こうして見てみると、どの宝石も神事に用いられたり、秘薬御守りとされたようだ。

妖怪となると、ほとんど見当たらない。江戸末期の長崎で、オランダ人がひどく欲した庭の石を割ると、中から魚が出てきた。これは玉鱗というもので、この石を透明になるくらい磨いて眺めていると不老不死になるという。ただ、これ宝石とは言えないか…。

海外には多くある。

フランスのヴィーヴルは、キメラタイプのドラゴン。上半身は人間の女、下半身は蛇、コウモリの羽、瞳が〈ダイヤモンド〉! 水を飲む時だけなぜかこれを外し、この宝石を手にした者は世界の権力を手に入れられるという!

南米のカーバンクルは、犬か猫のような姿で額に宝石が埋め込まれている。この言葉自体、元々は〈ルビー〉〈ガーネット〉を指した。チリでは、二枚貝の姿。1736年にはアルジェリアで捕獲されたという話も!?

モザンビーク近くのユシック諸島にいるアシボビュックは、雁くらいの大きさの怪鳥。糞が〈琥珀〉や〈龍涎香〉になると言われる。これは、鳥の糞が化石化する〈グノア〉という説も。

宝石を司る鬼神であるニティカは、「徳」の擬人化であるゲニウスの一。これの協力を得られると、宝石を媒介とする強力な魔力を得られるという。

デカラビアは宝石・薬草の効能を詳しく教えてくれる悪魔

宝石といえば、幾つもの呪われた宝石の話も知られる。

筆頭はホープ・ダイヤモンド。元々はヒンドゥー教寺院の女神シータの像の目に嵌められていたが、盗まれた為、僧が呪いをかけたと言われる。かつては、ルイ14世、ルイ15世、マリー・アントワネットが所有したが、これまた盗難に会い転々とした後、名前の由来になったヘンリー・ホープの元へ。彼は金銭的トラブルに見舞われ、その後の持ち主達には災難が降りかかった。現在この宝石は〈スミソニアン博物館〉に納められている。今回、絵に描いた『ルパン三世』の峰不二子もこれを手にしたが、やはり次々と災難に見舞われた。

コイ・ヌール・ダイヤモンドは、かつては世界最大と言われ、多くの王達が奪い合った。最終的にイギリスのヴィクトリア女王が手に入れ、今は〈ロンドン塔〉に。これを持った者は世界を手に出来るが、同時にすべての不幸も知る事になると言う。所持できるのはと女だけとも。

デリー・パープル・サファイアは、実は〈アメジスト〉。3世紀間〈ロンドン自然史博物館〉に所蔵されていたが、ある時この宝石の呪われた経緯が書かれたメモが発見された。それによると、この宝石はインドの反乱時に、英軍により盗み出されたが、やはり持ち主を次々と不幸に陥れた。川に捨てても、持ち主の元へ戻ってきたという!

ラ・ペレグリナ・パールは、スペイン王フェリペ二世や、エリザベス・テイラーらに破局をもたらした、恋愛にとって恐ろしい宝石。

他にもブラック・オルロフブルー・ダイヤモンド等が知られる。

そんな人々を魅了してきた宝石は、様々な分野の創作でも登場。

歌では、マリリン・モンローの『Diamonds Are A Girl's Best Friend』、寺尾聰の『ルビーの指輪』、プリンセスプリンセスの『瞳はダイアモンド』…。映画では『ピンク・パンサー』

『007ダイヤモンドは永遠に』、『ロマンシング・ストーン』…。アレクサンドル・デュマの『三銃士』で描かれた『王妃の首飾り』のエピソードは、実際にあったマリー・アントワネットの首飾り(ダイヤモンド540個の首飾り!)に関する詐欺事件がモデル。宮沢賢治も『十力の金剛石』を書いた(〈金剛石〉は〈ダイヤモンド〉の和名)。マンガでは『キャッツ・アイ』(実際はそういう宝石は無く、猫の目な様に光る現象)、『ジョジョの奇妙な冒険』でも、第二部の〈エイジャの赤石〉、第四部では副題が『ダイヤモンドは砕けない』、スタンド名もクレイジーダイヤモンドだった。今年2025年には市川春子『宝石の国』が〈日本SF大賞〉を獲った…!

しかし、なぜ人はかくも宝石に惹かれるのだろうか? キラキラしたものを集めるカラスと同じではないか…。これに関して脳科学者の茂木健一郎は、その魅力は宝石の永遠性にあると言っている。母から子へ、子から孫へ受け継がれ、遥か昔からその輝きを変えない。〈ダイヤモンド〉に至っては、誕生は数十億年前の超新星爆発とも言われ、壮大な宇宙の時間も感じさせるという。更に人は美しいものを見た時、ドーパミンが分泌されて気分が上がる。〈ルビー〉〈ガーネット〉は生命活動を感じさせ元気を、〈サファイア〉〈アクアマリン〉は空・海を思わせリラックス効果を、〈エメラルド〉〈翡翠〉は植物や食べ物を連想させ安心感を与えるという。なるほど…そう言われると悪くない…と思ってしまうなぁ。

色鳥や宝石は彼女の最高の友達風来松