知り合いがハンドベルをやっていて、初めて見に行ったのだが、音色とハーモーニーに感動! すっかり魅了された…。一人で幾つものベルを操る技術にも見惚れてしまった。ハンドベルは、450年以上前イギリスで、教会の鐘を鳴らす練習から生まれたという。ヨーロッパに行くと、よく教会鐘の音を聞く。〈百塔の町〉と呼ばれるチェコのプラハでは、ちょっとうるさいくらいだったが、あの音色は好きだ。日本のお寺の鐘の音もいい。寺を訪れると、ついついつ撞いてしまう。
鐘は、古代より世界中にある銅鑼・太鼓と同じグループの打楽器である。宗教儀式に用いられてきた。
日本では、縄文時代の土鈴、弥生時代の銅鐸が鐘である。現在、寺にある梵鐘はご存じの通り撞木で打つ。562年、高句麗より伝わったと『日本書紀』にある。徳川家康がいちゃもんを付けた、京〈方広寺〉の鐘はよく知られるが、これと、京〈知恩院〉、奈良〈東大寺〉のものとが、〈日本三大梵鐘〉。それらごく一部の貴重な鐘を除く日本の梵鐘の9割が、第二次世界大戦では軍に供出され失われた。大晦日、煩悩の数である百八回を撞く〈除夜の鐘〉は、宋の禅寺が起源で、日本では鎌倉時代に始まった。ただ明治時代には忘れられていて、昭和初期にラジオで大晦日の鐘が中継された事で、復活した。
一方、西洋の鐘は内部に「舌」と呼ばれる分銅が入っていて、鐘を揺らす事で音を出す。日本の鐘は嵐を呼ぶと言われ船に乗せるのは御法度だったが、西洋の場合はキリスト教の布教という意味でも船に乗せられる事が多かった。ヨーロッパでも、ロシアでも、鐘には「君主」「鼻歌」「おしゃべり」…等の名前を付けられる。有名なイギリス〈ウェストミンスター宮殿〉の〈ビッグベン〉が奏でる曲は、日本の学校のあのチャイムの原曲だ。ただ、イスラム教では、鐘は悪魔の使うものとされ「鐘がある家には天使が入らない」とか「鐘と犬を連れた旅行者とは同行しない」等と言われる。
鐘といえば、これまでに何度か登場した紀州〈道明寺〉の清姫。想いを寄せる僧・安珍に裏切られ、大蛇と化して日高川を渡って追い、〈道明寺〉で鐘ごと安珍を焼き殺した。
古くは、『今昔物語集』等に載るが、2人の名は無く、現在の形が成立したのは江戸時代以降。能・歌舞伎・浄瑠璃等で演じられた。鳥山石燕の『今昔百鬼拾遺』には、『鐘は溶けて湯になる』とあるにも関わらず『妙満寺に納められている』ともある。〈道明寺〉の鐘のその後については、幾つか逸話が残っている。安珍清姫の事件の400年後の1359年、鐘が再び寄進されたが清姫と思われる白拍子が現れ大蛇と化して鐘を引きずり下ろしたという。それでもなんとか取り付けられたが、音が悪く災害や疫病が発生した為、山中に捨てられてしまった…。更にその200年後の1500年代後半に、戦国武将の仙石秀久が件の鐘を発見し、京へ持ち帰り納めたのが〈妙満寺〉でるある…。
鐘に関する言い伝えは、全国各地に残る。滋賀県〈三井寺〉の鐘は武蔵坊弁慶により叡山に奪われた際、帰りたいというように鳴ったという。衆徒はこれを山上から落として捨て、鐘は割れてしまった。しかし、毎晩小蛇が現れて割れ目を修復したという。また、この鐘は俵藤太が【百足】退治の礼として龍宮より授かり献上した物だとも言われる。埼玉県〈幸福寺〉の竜が主の鐘撞き堂の鐘は、筑波山の竜に盗まれた。香川県〈国分寺〉の鐘にも白竜が宿るという。宮城県〈称名寺〉の鐘は幽霊が寄進した。
創作では『ノートルダムの鐘』がある。映画化やアニメ化も多々されて来たが、原作はビクトル・ユーゴーの『ノートルダム・ド・パリ』。15世紀パリ〈ノートルダム大聖堂〉の鐘つきカジモドと、ジプシーの踊り子エスメラルダの物語だが、アンハッピーエンドに終わる。
描いたのは、懐かしのAC(公共広告機構)のCM。『ごめんの鐘』。もったいないお化けにもゲスト出演してもらった。
句は、正岡子規。あまりにも有名な『柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺』以外の作品を…と選んだでみた。子規は多くの〈鐘〉句を残している。
風吹くや釣鐘動く花の形正岡子規