松山の今の家に住んで3年目だが、数えてみるとこれまで10回引っ越ししていた! 確か、広島での社会人2年目の春。引越しの赤帽のおっちゃんがトラックの中で、ブルース・スプリングスティーンのアルバムで一番好きなのは『ザ・リバー』だと話してくれたのを、今でも覚えている。
川の妖怪といえばやはり河童。広島の猿猴川、熊本の球磨川…関東の利根川には河童の女親分禰々子がいる。気まぐれで暴れん坊。彼女の移り住んだ土地では水難が起こった。が、屈強な武士・加納久左衛門に捕らえられ、それ以降はおとなしくなったという。北海道石狩川のアイヌに伝わるミントゥチも河童に似る。3〜12歳の子供の姿で、肌は緑か赤、禿頭。神代に疱瘡神パツチカムイと戦った人形チシナカムイの生き残りの一体が成ったとも。中国の水虎は、湖北省にいて3〜4歳の子供の姿、センザンコウのような鱗に覆われているという。これが日本に入ってきて、河童と混同された。
竜・蛇に関する言い伝えがある川も多い。天竜川には坂上田村麻呂が東国へ向かう途中に妻とした玉袖の伝説がある。暴れ川を鎮める為、〈岩水山〉で祈願した際に現れた美しい姫だったが、正体は天竜川に棲む赤大蛇だった。例の見るなのタブーを田村麻呂が破り産屋を見てしまい、姫は子を残して去った。その際に授かった宝珠で川は鎮められたという。絵に描いたのも、松本大洋『竹光侍』の天竜川。他にも、九頭竜川・四万十川・肱川…竜や大蛇は川や水の神とされ、氾濫を鎮めるために祀られたのだろう。川そのものが竜とされる例も少なくない。
河童、竜の他には、日本一の長さの信濃川に怪火・ミノムシが。全国各地に伝わるのは小豆洗い、川赤子、川女郎…。川姫は、高知高岡では糸を巻いており、福岡築上では水車の側にいて男の精気を吸い取り、大分中津では水面を歩くという。美濃には川男が伝わる。水の精を広く言い表わすのが魍魎。山の怪魑魅と合わせて魑魅魍魎。別名罔象(みずは)。
川といえば、三途の川。此岸と彼岸の境。懸衣翁(けんえおう)と奪衣婆(だつえば)がいて、渡り賃として六文銭を支払う。また、賽の河原では親より前に死んだ子らが石を積み上げるが鬼が壊し地蔵菩薩が救う。川の名前のの由来は、善人・軽罪人・重罪人で3種類の渡り方があった事からとも。中国では牛頭馬頭が守護する忘川奈川と呼ばれる。これと似たものは、世界中の神話にある。『ギリシャ神話』では、ステュクス川、アーケロン川。やはり冥界の渡し守カロンに1オボロスを支払う。『メソポタミア神話』にもヒューバー川、『北欧神話』にもギョッル川が。
神では、水源地や水路の分岐点に水分神(みくまりのかみ)がいる。川の神であると同時に山の神でもある点は、河童と共通している。ガンジス川には女神ガンガーが、黄河の河伯は、白亀や竜に乗るとされ、洪水を起こして若い女の生贄を求めた。ナイル川のハピは水の主人であり、全ての虫と魚の長であり、更には神々の長とも言われる!
もちろん、世界中に川のUMAも多い。ハドソン川版ネッシーのキプシー。ミズーリ川のミニワシトゥは一つ目・一本角のバッファローのような姿で、見た者は盲目になるという。ミシシッピ川には、イリニ族に伝わる角の生えた怪鳥ピアサ、ホワイトリバーモンスター、カエル男…。テムズ川のテッシー、モルダウ川のヴォジヤノーイ、ドナウ川には竜宮城のような川底の水晶宮に棲み、美しい姿と歌で人間を誘惑して川へ引きずり込むというドナウの乙女が(これは妖精の類か)。アムール川のルサールカ、ナイル川の怪魚ラウ、アマゾン川のホラディラもいる!
やはり川は昔から世界中で、この世界と別の世界の境ということなのだろう…。
そんな川は、楽曲の題材にも取り上げられてきた。『モルダウ』『美しく青きドナウ』『クワイ川マーチ』『スワニー川』『ムーンリバー』『ぼくのミシシッピ』『花』『川の流れのように』『神田川』…。
その中で筆者のNo.1川ソングは、佐野元春の『ロックンロールナイト』だ!
『たどりつくといつもそこには川が横たわっている それはいつか幼い頃どこかで見たことある川なのさ…』
今はこの夕凪の川下り帰す風来松