ハイウェイ61号線は、アメリカ合衆国、ルイジアナ州ニューオーリンズ〜ミネソタ州ワイオミングまでの約2300km。概ねミシシッピ川に沿っていて、途中メンフィスも通る。1991年ワイオミング以北は廃線となり、州道として残る。別名〈ブルース・ハイウェイ〉。数え切れない程のブルースのレジェンド達(BBキング、ジミー・ロジャース、ボブ・ディラン…)がここで生まれ、数々の伝説が生まれた。エルビス・プレスリーもこの路線に沿って建てられた住宅で育ち、〈ブルースの女王〉ベッシー・スミスは事故死。マーチン・ルーサー・キングも沿線のモーテル〈ロレイン〉の306号室で殺害された。
クロスロードは、61号線と49号線の交差点で、ミシシッピ州クラークスデールにある。1930年代の中頃、ブルース歌手ロバート・ジョンソンが、ギターのテクニックと引き換えに悪魔に魂を売ったという伝説の場所。人口1800人程度の町だが、ここからジョン・フッカーや、アイク・ターナーら、多くのミュージシャンが輩出され、マディー・ウォーターズも暮らした時期がある。今もブルースの聖地として訪れるファンが後を絶たず、交差点には大きなモニュメントが立つ。ただ、1930年当時の場所はからは、800m程ズレている。
そんな伝説の場所なので、これまでに様々なジャンルで、引用されてきた。まずロバート・ジョンソン本人の『Crossroad Blues』、フレッド・マクドウェルの『61 highway』、ウィリー・バッツ『Highway 61 Blues』、筆者にとって馴染み深いのは1965年のボブ・ディランのアルバム『追憶のハイウェイ61』。その中では、『神がアブラハムとそこで子供を殺せと命じた場所』『次の世界大戦が始まる所』と歌われている。そして、2024年ザ・クロマニヨンズの『ハイウェイ61』!
映画でも、1986年『クロスロード』があった。主演は『ベストキッド』のラルフ・マッチ。多分、筆者もそれで観に行ったのだろう。改めて知ったが、これ監督ウォルター・ヒル、音楽ライ・クーダーやったんや! 更にクロスロードにいる悪魔役は〈ホワイトスネイク〉のスティーヴ・ヴァイ。映画と言えば、『ブルース・ブラザーズ』の挿入歌『スイート・ホームシカゴ』が、ロバート・ジョンソンの曲だ。
さて、最後にクロスロードの伝説をもう少し。そこへ、深夜0時ちょっと前に行き、一人でギターをひとくさり弾く。すると、黒い大男が現れて、ギターを取り上げチューニングをする。そうすると、何でも弾けるようになる…!
この話は、ハイチの〈ブードゥー教〉・西アフリカに流布する、この世とあの世の十字路の番人パパ・レグバや、前に書いたバロン・サムディを思わせる。
ロバート・ジョンソンは女癖が悪く、それが祟って、浮気相手の旦那に毒入りのウイスキーを飲まされ、27歳の若さで亡くなったとも言われる。彼とベッドを共にした女達は、真夜中に月明かりの下で、ほとんど音を出さずギターの弦を押さえているロバートを見たと話す。そして、見られていることを知ると、何かを隠すように弾くのを止めた。また、彼は演奏の途中、他のミュージシャンの視線を感じると、手を隠したり、背を向けたりしたともいう…。
今も待つノコギリソウの十字路に風来松