382. 大洲

先日、愛媛県南予の大洲市肱川へ、人生初の鵜飼に行ってきた。鵜飼と言うと、『陰陽師』で獺の化身黒川主が鵜匠の娘に憑いて、子を産ませる話があった。黒川主の手下の女童の正体も河鹿だったが、今回訪れた肱川でも河鹿が鳴いていて、なんとも幽玄な感じだった。能にも『鵜飼』がある。禁漁の川で漁をした為、川に沈められた鵜匠が幽霊となり登場する。

鵜飼は、『古事記』『日本書紀』にも載る。かつては、天皇や貴族、大名への献上品である鮎を捕る為に行われたらしい。平安時代には遊興として催されたが、明治期に廃れる。昭和に入り観光として復活。伊予大洲肱川、岐阜長良川、大分三隈川とで、〈日本三大鵜飼〉と呼ばれる。海外でも、中国、イギリス・フランス、南米ペルーで鵜飼が行われている! 使用される鵜は意外にもウミウで、かって筆者も住んでいた愛知県知多半島の篠島で捕獲されている。

大洲は、「伊予の小京都」と呼ばれる風情のある町だ。これまでにも何度か訪れた事があったが、今回初めてガイドさんに案内してもらって廻った。特産の木蝋は、当時フランスに送られてパリジェンヌ達の口紅に使われていた!等、知らない事ばかりで驚いた。

観光の目玉の一つが、〈臥龍山荘〉である。木蝋で財を成した豪商・河内寅次郎の別荘で、千家十職の名工らによる数寄心に溢れている。名前の由来は、三代藩主・加藤泰恒が肱川の浮島〈蓬莱山〉がの臥した姿に似る事から名付けたとも、〈臥龍淵〉にいる霊竜を見た事によるとも! 庭園の隅にある氷室にもが棲んでいたと言う。「大洲にはの伝説が多くあるんですよ。」とガイドさん。先日訪れた八幡浜同様、愛媛県南予はの土地らしい。

調べてみたところ、なるほど幾つか見つかった。まず、が棲んでいるという〈秋滝龍王神社〉の〈竜王の滝〉。今もいる2匹のオオウナギがの化身とも。また、なぜか生卵を滝壺に投げ入れて願い事をするという。

〈轟竜王大神〉の〈轟滝〉にも竜神が棲む。かつて、修験者・快仙が消えた下女をこの滝壺で見つけたが、既に竜王に魅入られ人間界には帰れないと言ったという。この竜王も、〈臥龍山荘〉のも雨乞いに応え雨を降らせている。

実は大洲は、以外にも妖怪どころのようで、明治初期には『大洲妖怪録』なる書物が書かれた! そこには、上須戒村と高山村の境に毎月27日子の刻、烏帽子と狩衣姿で白馬に乗る貴人の姿で現れる夜行の神(これに出会うと熱病で死ぬという)。大洲城に出る枕返し山犬犬神祟りのあった神木や、同年代の者が亡くなった際、熱い餅で耳を塞ぐ風習…等が載る。他にも、大洲はあの少名彦命の終焉の地という伝説も! 肱川渡河中に常世國に渡った終着の地とされ、その亡骸は梁瀬山に埋葬されていると〈少名彦神社〉縁起にある。

淵眠る竜の上過ぐ鵜飼舟風来松