369. 茸

前回書いた、釈迦の死因説もある茸。その姿は、不思議で、毒毒しく、ユーモラスで、ファンタジックである…。

新潟橋田の廃寺では、盆踊りをしていた子供達が皆、突然茸になった! 宮城白石では、千本しめじが、白い笠と着物姿の一団に化けて、自分達を採って欲しいと言いに現れた。愛知南相楽では、炉の灰の中から息子の死を報せる茸が生えたという。群馬一ノ宮では、戦争末期、〈貴船神社〉の御神木に蛙の形の茸が生え、「軍神」とされたが、敗戦と同時に萎んでしまった。

妖怪では、奈良や兵庫の山間部や森に現れる木の子。2〜4歳ほどの子供の姿。青い服を着ていると言うが、影のようにぼんやりとしか見えない。集団で遊んでいたりするだけだが、油断すると弁当を盗られる事も。棒で簡単に追い払える。この木の子が茸の語源という説もある。

茸の神は、菌神(くさびらがみ)。舒明天皇(593〜641年)の頃、滋賀での大飢饉の際に、見たことのない小さいものについて森に入ると、大量の茸を発見! 食べて飢えを凌いだ。これが栗原市の〈菌神社〉に祀られ、5月3日の祭礼では、じゃこのなれ寿司が供えられる。

海外では、猛毒の〈ベニテングタケ〉の話が多い。シベリア・コニャーク人の、これの精霊は、人を誑かして食べさせる。『ゲルマン神話』では、戦神ウォータンの馬の吹いた血からこれが生えた。幻覚作用もあるので、古代アステカやインディオはのお告げを聴く為に、バイキングや狂戦士(ベルセルク)は戦いの前に気分を高揚させる為に、これを食べた。前にも書いた、茸が環状に生えるフェアリーリングは、妖精の通った跡とか、妖精界への入口とされる。これの露に触れると、若い女は肌が荒れると言う。

さて、描いたのは、1996年水木サンの童話『妖精をたずねて』。虫をいじめていた少年・金太が、ある日虫たちの世界を迷い込み、そこで亡くなった母親に会うという話。虫や植物を守る妖精もいる。美しく繊細な絵で、水木サンの別な一面という気もするが、やはり妖怪の世界と通じる物もある、素敵な作品。

満月は動かずキノコらは踊る風来松