60. 来訪神

一年のうち、決まった時期に人の世に訪れる。多くは、仮面・仮装の異形。豊穣・幸福をもたらす。時期は、新年・小正月・豊年祭・節祭等の季節の変わり目。海の遥か向こうから来るとされ、沖縄県のニライカナイがよく知られる。秘儀的性格を持ち、若者により構成され、女・子供を威嚇し、棒状の物を持ち泥を塗るパターン等が多く見られる。折口学はまれびとと呼び、常世や外部から来訪するものとした。

2018年、日本の来訪神行事10件が、「来訪神/仮面・仮装の神々」として、ユネスコの無形文化遺産に登録された。

秋田県男鹿市のナマハゲ、山形県遊佐町のアマハゲ、岩手県大船渡市のスネカ、石川県輪島市・鳳珠郡能登町のアマメハギ。これらは、囲炉裏に当たるとできる〈アマ〉を剥ぎに来る。

宮城県登米市の火伏せの行事〈氷川の水かぶり〉、佐賀県佐賀市の〈見島のカセドリ〉は神使の鶏、加勢鳥

鹿児島県下甑島のトシドン、同県硫黄島のメンドン、同じく悪石島のボゼ、沖縄県宮古島のパーントゥは、悪魔祓い的なもので、南方の精霊に酷似している。

以上が、ユネスコに登録されたものだが、ほかにも、岩手県のホロロンナモミ、福井県のアポッシャ、瀬戸内のコトコト、宮崎県・鹿児島県の弥五郎どん、沖縄県八重山列島のミルク、石垣島・竹富島のアカマタクロマタ…等、日本各地に存在する。

海外にも同様のものは多い。前述の南方諸島には、メラネシアニューブリテン島のドゥクドゥク、水木さんとも縁深いパプアニューギニア・トーライ族のドゥブアン。ヨーロッパでは、スイスで謝肉祭に訪れるカイチェクタ、スロベニアのクーレントクランプスは、あの聖ニコラウス=サンタクロースの相棒で悪魔的な姿。悪い子を戒める。もちろん、サンタクロースこそ最も有名な来訪神か。

アメリカ・インディアンのホピ族の黒鬼は、ホピに1000程いるとされる、精霊のような存在の一。一年の半分は村で、残りの半分は高い山の頂にいるという。また黒鬼と共に白鬼も来る。少年は取った鼠を差し出し、少女はトウモロコシを懸命に挽かなければならない。それが十分と認められると去るという。

水木さんは『続・世界妖怪事典』の中で、ホピの黒鬼白鬼ナマハゲのように教育的役割を担っているとし、さらに「妖怪どものうち半数は世界共通なものだ」という考えを述べている。

囲炉裏端ナマハゲが十一人いる風来松