52. 山姥

奥山に棲み、人を喰う。乱れた長い白髪の、老婆の姿。背の丈は3メートル程の大女。口は般若の如く裂け、ボロや、草木で編んだ服を纏うか、全裸。肌は真っ白。やまうばやまんば山母山女等と呼ばれる。山姫山女郎と呼ばれる若く美しいものも、これに含まれると言われるが、筆者の心情的にそれはまた別の機会に書きたい...。

静岡県磐田では、家に入ってきて休んだという。服は木の皮を綴ったような物だった。長野県東筑摩ではウバと言い、長髪で一つ目の姿。八丈島のテッジは神隠しをしたり、人を道に迷わせる。逆に親しくなると仕事を手伝ったり、迷った子を世話するとも。同島のホッチョバァは、山から祭りのような音を立てる。高知県でも、これが憑くと家が富むという座敷童的な存在として語られ、他の妖怪でもよくある二面性を持つようだ。同県影野村では、6メートルもある長髪のそれが松の枝に腰掛けているのを多くの人が見たという。九州でも、宮崎県や、鹿児島県に話が残り、『本草綱目』には日南国に集団でおり男を攫うとある。

他産に関する話も多い。宮崎県では1200人、徳島県では8万人、長野県下栗ではなんと、75万人を一度に産んだという! また、死体や排泄物から、薬や金、不思議な力を持つ宝物が発生したという話もあり、『古事記』のオオゲツヒメイザナミを思わせる。後者が葬られたとされる比婆山(ヒバゴンの!)が、やまんばの語源という説もある。

柳田國男は『遠野物語』で、その正体は狂人・山の神に娶られる者・山人に攫われる者で、山隠れする女と書いている。山の神に仕える巫女、山窩などとも考えられる。

特に伝承の多い徳島県では、近代まで目撃があり、愛知県本宮山でも1484年に退治された記録が、京都でも1609年に見世物にされていたという。

金太郎の母親が山姥だったというのは有名な話だが(父親は赤龍)、これを元に世阿弥は謡曲『山姥』を、さらに近松門左衛門が『嫗山姥』を創作した。

山姥というと、やはり昔話。『食わず女房』や『牛方と山姥』等は、人食い山姥に追いかけられるパターン。婆さんのくせにどの話も足が早くて恐ろしい...。一方、福をもたらす系の物もあり、『シンデレラ』によく似た『糠福米福』や『姥皮』等がそれ。筆者が好きなのは『三枚のお札』! お札をくれるのが、便所の神様というのに、まず驚いた...。子供ごころに、「へ〜!便所にも神様いるんだ...」と思った。その後、お札の力で大水や火の壁が出たりするあたりは大スペクタクルという感じだし、何よりラストで、和尚さんがトンチを働かせて山姥を豆粒にして食べてしまうというのが、凄い...!

山ン婆が戸を開けさふな木枯らし夜飛万里