45. 海坊主

夜の海に出没し船を破壊する妖怪。大きさは数mから、数十m。坊主頭でヌルヌルしているというものが多い。小さいものは群れをなして船を襲い、櫓に抱きついたり、篝火を消したりする。「柄杓を貸せ」と言うのは船幽霊との混同と思われる。弱点は、煙草の火や煙、火の付いたマッチでも良い。また、金毘羅に祈ったり、海神に御神酒を捧げるという話もある。

ここ愛媛県での海坊主の言い伝えは、特に南予や島しょ部に多い。宇和島市下波ではこれに海で会った漁師宅に按摩になって現れ、嫁を殺した。また戸島では、出産の穢れのある〈赤火〉、死人の穢れのある〈黒火〉の者が船に乗ると海坊主に憑かれるという。北宇和ではシラミユウレンと言い、別名のバカと呼ぶとひどい目に合うという...。大島鵜島では、相撲を挑まれた力自慢が3日後死亡。ここは入道鼻と呼ばれる。恐ろしい話ばかりだが、一方で海坊主を見たものは長生きできるともいわれる。

もちろん日本全国に海坊主の話はある。東北では、最初に捕った魚を海に捧げないと船主を攫うという。宮城県では美女に化けて泳ぎを競ったり、愛媛県での例と同じように相撲を挑んだりする。ただ、相手にすると死んでしまう話が多いので、受けないほうが良さそうだ...。

佐渡ヶ島では、タテエボシといって、海上に20mもの高さのものが船めがけて倒れてくる。同様の妖怪が、鳥取県や大分県にもおり、両方とも一つ目。大分県でいうと、女の海坊主は港の中に、男のそれは外洋にいるとされ、船で寝ると襲われるというが、船霊を祀る中央部に寝ると大丈夫らしい。

和歌山県の神小浜のモクリコクリは3月3日には山に、5月5日には海に現れ、人の魂を抜く。元寇での水死者の霊ともいう。同県の毛見浦の海坊主は、2m大の大猿のような姿で、口は鰐、牛のように鳴く。備讃灘のそれは頭大の玉状でぬらりひょんと呼ばれる!

海坊主の記述は江戸時代に多く、和泉貝塚市では陸に三日いたとか、三重県桑名市では「恐ろしいか?」と聞いてきたとか、伊勢市では女を船に乗せた為、女房が攫われた等の話が残る。

海外でも、中国の和尚魚海人、西洋のシービショップシーモンクも同様の妖怪であろう。(それにしても、坊さんの不人気たるや...)

探検家・角幡唯介は自らの体験から、正体はセイウチなどの海獣だろうと書いている。他にも、ウミガメや、ガスで膨らんだクジラの死体等も考えられる。

二十一代総理大臣の加藤友三郎は、筆者にとっては『坂の上の雲』でお馴染みなのだが、海軍時代に、海坊主を砲撃して退治したという伝説がある。ほんとうは鯨だったようだが...。

海坊主より二百十日の蜜柑畑風来松