311. 生石

ここ伊予松山の町中に生石(しょうせき)という地区があり、地元民にとっては小学校の名前にもなっていて馴染み深い。そこにある〈生石八幡神社〉の御神体は、拳大の濃い鼠色をした鈍い光沢のある平たい石で、安産にご利益があるという。

この神社ではかつて、大晦日の晩から翌年の六日までの日没から日の出までの参拝を禁じ、破ると祟りがあるとされた。ある時、これを怪しんだ一人の神官が六日の夜に大小の太刀を帯び、神前で松明を焚いていたところ、白髪の老女が現れ「我が魔界を侵すものは何奴ぞ?」と襲いかかってきた! 戦いの末、神官の刀が噛み砕かれそうになった時、刀の目貫の金の鶏が「東天紅!」と鳴く。すると魔女は「ワシの領分の時刻は過ぎた!」と飛び去ったという...。

また別の話では...。この社では毎年大晦日に若い娘を人身御供としてきた。ある時、京よりの薬の行商人・熊太郎と、その猛犬・文蔵がその場に立ち合い、現れた怪神に立ち向った! 犬はこれと噛みあって相打ちに。その際、助けられた娘は、猛犬・文蔵の精を感じて石を産んだ。これこそ前述の御神体であるという。

ただ一般的には、神功皇后が朝鮮出兵の際に立ち寄り、その時に出産を遅らせるために腹に入れていた〈月延石〉が由来とされる。

前述の魔女は、『伊予史談』のなかの『伊予における人身御供と人柱伝説』や、『伊予路』中の『生石八幡のタブー』に載る。また、伊予市に私設博物館を持つ数寄者・いせきこたろうも『生石には大魔が出るとの伝説があった。』と記している。

魔も犬も去り石生まれ松過ぎる風来松