9. 狸

「狐七化け狸八化け」と言われ、化かすことに関しては狸が一段上とされる。狐は人を惑わせる為に化け、狸は楽しむ為に化ける。

むじな、まみ、田猫、田の怪、たたげ、だんざ...等、いろいろ呼ばれる。妖怪化け狸としても、妖狸怪狸古狸とも。

奈良時代の『日本書紀』に「陸奥の狢人となり歌をうたう」とあるのが、初出。人を化かす話は多くあり、のっぺらぼう大入道、徳利、大煙管、汽車...と、様々。また、狸憑きもある。

化け狸は四国に多く伝わる。そして狐同様、信仰の対象として各地に祀られている。

日本三大名狸と言われるのが、まず佐渡ヶ島の団三郎狸。悪戯も人助けも金貸しもした。金山で使う鞴用に狸を売っていた商人がモデルという。

次は、淡路島の芝右衛門狸。洲本の三熊山に妻のお増と棲む陽気な狸で、腹鼓を打ったり悪戯をしたり、迷った人を助けたりもしていた。二人で浪速に芝居見物に行き、化け比べをしてふざけていた際、本物の大名行列と化けたものとを間違えて、お増は殺されてしまう!(前回のおさん狐と同じ。このパターンは実はよく見られる。)更に芝居小屋で芝右衛門狸も犬に殺されてしまう...。また、別の機会に書こうと思うが阿波狸合戦というのがあり、これの助太刀に徳島に来た時にやはり犬に殺されたとも言われる。

大トリは、香川県屋島の太三郎狸別名屋島の禿狸。かって平重盛に助けられ、平家の守護を誓った一族の末裔。四国狸の総大将で三百の眷属を持つ。鑑真や、空海の道案内もしたという!(ちなみに四国の狐は狸と空海により追い出された)ある時、猟師に撃たれて死ぬが、死後は阿波に住み人に憑いた。嘉永年間(1848〜55)阿波市の髪結い女に憑き、吉凶を予言したり狸憑きを落としたりした。これまた阿波狸合戦の仲裁をし、日清・日露戦争では多くの子分と出征して大量の小豆を兵隊に変えて活躍したという!

日本三大狸話というのもある。有名な分福茶釜証城寺の狸囃子、そして我が生国伊予松山の松山騒動八百八狸物語に出る隠神刑部である。1805年〈享保の大飢饉〉に際して起こったお家騒動を下敷きに、田辺南龍が怪談噺に仕立て上げ講談で広まった。八百八狸の総師隠神刑部は、久万山の古い岩屋に棲む四国最高の神通力を持つ狸である。「刑部」は城主より授かった称号。松山城を守護してきたが、松平久松の世のお家騒動において謀反側に利用され、あの『稲生物怪録』の稲生武太夫に、八百八の眷属もろとも久万山に封じ込められてしまった。現在の〈九谷組山口霊神〉である。

この隠神刑部と、前述の屋島の太三郎狸、そして徳島の金長狸とで四国三名狸という。

さて、ここ四国伊予松山には、他にも沢山の狸がいる。松山一の美女狸お袖狸。堀端の〈八俣榎大明神〉に祀られる。毘沙門狸は赤目の老狸で坊っちゃん列車等に化けて人を驚かせた。番付で横綱が金平狸。〈大宮八幡宮〉の宮司の使い狸で、インテリで優しく、晩年は大阪で旅館を経営した。絵に描いた勝山町の六角堂狸は髑髏を振り回し人を誑かしていたが、住職に髑髏を取り上げられ力を失い、代わりに法衣をもらい改心した。六角堂では毎年、〈きゅうり封じ〉も行われる。

絵は、尾田栄一郎の『ワンピース』の、ぶんぶく。彼は熊本出身だが、熊本と言えば『あんたがたどこさ』の船場山の狸。かつて新町辺りに堀を作った際の土で作った土塁を「せんば山」と呼んだ。と、『ブラタモリ』でやっていた。

きうり封じ六角狸の目も緑風来松