363. 樹魂

木霊(こだま)とも。

樹木に宿る精霊。古木、巨木の場合が多い。木から離れて山中を敏捷に駆け回り、人、獣、火等に変身も出来る。宿る木を切り倒そうとすると血を流し、祟るという。やまびこも、これの仕業とも。鳥取県では呼子呼子鳥、長野県安曇野では山産岩が、声を返すと言われる。

鳥山石燕の『図化百鬼夜行』には、老男女の姿で描かれおり、『百年を経た木には神霊がこもり姿を現す』と解説されている。

中国の『捜神記』にも、呉の時代、人面の犬のような彭侯が千年を経たクスノキから現れたとあり、食べる(!)と犬の味がしたという。

伊豆諸島青ヶ島のスギの根元の祠にいるのは、キダマサマコダマサマ。八丈島三根村でも、木を切る時には必ずコダマサマに祭りを捧げる。沖縄県のガジュマルの古木にいるのはキヌーシーキジムナーもこれの一種とも言われる。

『古事記』『日本書紀』には、木の神久久能智(ククノチ)、国中に木を植えたという五十猛命(イタケルノミコト)が。平安時代の『和名類聚抄』にも古多万が、『源氏物語』にも木魂の記述がある。現代においても、神社には神の降りる木が植えられており、サカキ・オガタマノキ・ナギ・スギ・カシ・モチノキ等、先の尖った常緑樹が多い。

海外でも地中海ではカシ、樹木崇拝の〈ドルイド文化〉ではオーク、古代ローマのロムルス王はイチジクを神聖視した。『北欧神話』では、男はトリネコ、女はニレから生まれたとし、また、世界の中心には世界樹ユグドラシルがあるとした。『ギリシャ神話』の木の精ドリュアスは、美しい娘の姿で男を誘惑して木に取り込む。その中での1日は、この世の何十年・何百年にあたる。長寿だが、宿る木が枯れると死んでしまう。

創作では、『指輪物語』のエント、映画『ガーディアン・オブ・ギャラクシー』のグルート、『ポルターガイスト』の家の隣の襲ってくる木も怖かった!

描いたのは、今も小学校の教科書にある斎藤隆介作・滝平二郎絵の『モチモチの木』。弱虫の主人公豆太は倒れた祖父の為、医者を呼びに半里離れた麓の村へ夜道を走る。その時、いつも恐れていたモチモチの木(トチ)が光る。『勇気のあるものだけが見られる山の神の祭』と祖父から聞いていたのが、これだった。しかし、その後豆太が元の弱虫にもどってしまうのが、可笑しい!

モチ月の豆太の行手照らしをり風来松