57. 花

話題のマンガ『鬼滅の刃』の中で、鬼殺隊の最終選考の舞台が、藤の咲き乱れる山だった。が苦手とするという設定は、直射日光が指す場所を好むという藤の性質からか。

藤は昔から、椅子や籠等の民具、紐、仕事着や喪服にも利用されてきた。「不死」に繋がるとされ縁起が良いとされる一方、「不治」とも捉えられ、お見舞いや、庭に飢える木としては避けられた。

『古事記』には伊豆志袁登売姫(いづしおとめのかみ)という、藤にまつわる美しく心優しい姫が登場する。若い神々からの求婚を全て断っていた彼女は、現在の豊岡市出石町の土地の兄弟神の、弟の方の妻になるのだが、彼は母神の作った藤の葛の衣服をまとい、弓矢を携え求婚に向かう。それらはみるみるうちに藤の花に変わり、その藤に身を隠して姫の家に入ったたいう...。

藤以外で多く語られるのが、椿。鳥山石燕『今昔画図画続百鬼』 にも、古山茶の霊が載る。山形県の椿女は人を蜂に変え、椿の花に吸い込ませ殺してしまう。岐阜県には美女に化けて光る化け椿。熊本県の木心坊は椿ですりこぎを作ると生まれる。

秋田県では、イワシバナは仏様が嫌うとされ、ほどげ=サクラソウは魔除けとされる。愛媛県のエヒメアヤメは、虚ろ舟で流れ着いた落人の姫が、死後なったものと言われる。

中国の百花仙子は、蓬莱山に住む百人の花の精の長西王母の主催した蟠桃会で、一斉に花を咲かせてみせた。

『ギリシャ神話』の花の女神はフローラ。元はニンフクロリスと言ったが、西風の神ゼピュロスに強引に妻にさせられ、その代償として、花を支配する力を得た。ゼウスの妻ヘラに、触れるだけで妊娠できる花を与えた。

『ギリシャ神話』には、花に関する逸話が多い。乱暴な山羊の精が姿を変えられたラン。医神に殺された若き弟子はシャクナゲに。眠りの神ピュプノスはケシで生物を眠らせる。木の精ベリデスは、果実の神ウェルトゥムヌスから逃れるヒナギグに。セージも王の求愛から逃れるニンフが。ロータスもやはり、嫌な男から身を隠すニンフがなった。先に触れたヘラと、子を産んだのはサンザシ。なんとレタスとも一人儲けた!

絵は、水木しげる『妖怪花あそび』より。

ひとりふたりと藤棚に喰はれけり夜市