72. 鳥

古今東西、翼を持ち自由に大空を飛ぶ鳥は、人間にとって特別な存在である。多くの神話や伝承で、生と死、神界・冥界と人間界を自由に行き来するとされてきた。

古代ローマの司祭は、鳥を見て予言を行ない、鳥の言葉を通訳し、鳥卜(augury)と称した。意味は「鳥を観察する者」。

『ギリシャ神話』では、アポロンがワタリガラスに変身。『旧約聖書』でノアが初めて放したのも、この鳥だ。『北欧神話』のフギンムニンは、オーディーンに情報を囁く。中国の太陽の中にはかつて三本足のカラスが九羽棲んでいたという。神武天皇の道案内をした八咫烏も有名。

聖鳥は、特定のの側にいる、もしくはの象徴の鳥。インド創造神ブラフマーのそれは、ハクチョウ。ローマ神話女神ジュノーはガン、『ギリシャ神話』主神ゼウスはイヌワシ。ハクチョウにも化身した。女神アテナはコキンメフクロウ。

フクロウは、アフリカでは不運・魔女・死と結びつけて考えられた。ヨーロッパでは賢者。アイヌも、シマフクロウを、最初の鳥とし、モシリ・シカマ・カムイ(国を守る神)と呼んだ。

ヤツガシラは、古代エジプトで神聖視され、ペルシャでも美徳の象徴とされた。一方、ヨーロッパでは泥棒、スカンジナビアでは戦の先駆けと言われた。

アボリジニーの創世神話で、精霊の目覚まし役は、ワライカワセミ。アメリカインディアン・ワイヨット族は自分達の始祖をコンドルと考える。

妖怪では、まず伊予の山奥の竹藪に棲むという波山。火を吐く大鶏。音だけの妖とも。モデルは、ヒクイドリか?以津真天は1333年紫宸殿に現れて、「いつまでも、いつまでも」と鳴き火を吐いた、巨大な鳥。寺つつきは、法隆寺や四天王寺を襲った。聖徳太子と蘇我馬子に討たれた物部守屋の怨霊と言われる。鳥的にはアカゲラ?姑獲鳥(うぶめどり)となると、鳥とついているが、産怪タイプ。もキメラタイプで、こちらはトラツグミと言われる。

唐土の鳥は七草の刻み唄に残り、中国といえば鳳凰朱雀等が思い浮かぶ。

描いたアオサギには、青鷺火という妖怪がいる。鳥山石燕の『今昔図画続百鬼』、竹原春泉の『絵本百物語』に載る。また、江戸時代の『変化物春遊』にも、大和国で雨の夜に光ったとあり、新潟佐渡でも根本寺の梅の木の龍燈の正体が、青鷺だったとある。『吾妻鏡』や『耳嚢』にも同様に光る鷺の話がでてくるが、こちらは醍醐天皇より五位を授かったというゴイサギと思われる。サギも歳を取ると化けると言われ、胸には鱗が出来、青白い光を放つという。南方熊楠も目撃しており、現代においても今だ目撃例があり、バクテリア説等が挙げられている。

アオサギは、古代エジプトでも神ベヌウとされ、混沌の海から太陽のたまごを拾い上げた。夜明けとともに生まれ、日暮れとともに死ぬが、また翌朝には蘇ると言われ、これがフェニックスになったとも言われる。ちなみにアオサギの学名ラテン語のArdeaも、「ardeo」=「燃える」からではないかと、〈北海道アオサギ研究会〉代表・松長克利氏も書いている。

少年といふべき鷺や川桜泥炭