76. いちょう

イチョウは世界最古の樹木の一つ。〈生きた化石〉とも言われ、2億7000万年前から形は変わっていない。中生代までに全世界に繁茂したが、氷河期で現在のイチョウを残し絶滅した。名前は中国語でアヒルの足に見たてた「鴨脚(イアチャオ)」からとも。明代にこれが伝わるまでは、日本では「銀杏」と呼ばれていた。長寿の木で、幹回りが10mを超えるものも多く現存する。

描いたのは、与謝蕪村『蕪村妖怪絵巻』より『鎌倉若宮八幡いてうの木のばけ者』。全身黄色で、鉦を叩きながら現れる老木の精。石川県白山市〈瀬戸神社〉にある大イチョウの木の上では、天狗が泣いた。青森県つがる市でも、銀杏の上の女を撃ち殺したところ正体は化け猫で、その祟りで撃った男は家に戻るまで九年かかった。山形県〈正光院〉では、住職が大イチョウを碁盤にする為切ろうとしたところ、三日三晩女の姿で枕元に立ち、切らないよう頼んだという。

杖銀杏の伝説は各地にあり、空海・親鸞・日蓮といった高僧が地面に刺した杖が成長したといったもの。気根に触れたり、煎じて飲むと乳の出の良くなるという乳イチョウも多くある。

イチョウは油分を含み、水はけが良く、加工性・耐火性に優れる。その為、建具・家具・まな板・碁盤・将棋盤等に利用される。また、寺社や城に多く植えられるが、高位の木というイメージからか、一般の家には不吉とされ避けられる。

城といえば、筆者の第三の故郷、熊本県の熊本城は別名〈銀杏城〉! 熊本市の木にも指定されている。たいてい城の木は、食料や薬、燃料になるものが多い。マツ・シイ・ウメそして銀杏。熊本城を築城した、地元で「せいしょこさん」の愛称で呼ばれる加藤清正公は、銀杏の他にも、畳の芯や土塀にサトイモの茎を使用し、もしもの時に備えた。また、清正公お手植えという大イチョウは高さ21.5m、幹回り12.3m。実はこのイチョウを植えた際、清正公が「この木が天守と同じ高さになった時、戦が起こる」と予言し、実際に西南戦争が勃発! 城共々、このイチョウも燃えてしまったのだが、燃え跡から新芽が出て、今の姿にまでなったという! 倒れても、倒れても、また立ち上がる! 肥後もん、むしゃんこつすごかばい!

銀杏落葉なんかいもみたいな君と七菜